洗剤1トン分!

「とはいえ、移動に時間が掛かるな。ん?」


 湯船にプカプカと浮いているフローターに目を通す。あれを使うか。


「確か露天風呂って、川と繋がってるんだよな?」


「はい。湖まで一直線です」


 ならば、コレに載っていけば。俺はフローターに乗り込んだ。


「パイロン、クヌギ、ドラゴンを湖付近まで誘導してくれ」


『承知した』


 クヌギを追って、ドラゴンが迫ってくる。


『フローターの運転は、お任せを』


「すまん、真琴。よおし、発進っ!」


 川を下りながら、俺はフローターのエンジンを掛けた。一気に突き進む。


 思っていたよりスピードが出て焦った。

 真琴がうまく誘導してくれるおかげで、どうにか振り落とされずに済みそうだ。


「こっちだ老害、ついて来られるか?」


「フン、若造が!」


 ドラゴンが間近に迫ってきた。クヌギを無視して、俺の方へと向かってくる。


「今だ、天候操作!」

「はい、せーの!」


 パイロンが手をかざし、大量の雨を降らせた。


 風が渦を巻く。

 

 風に乗って、露天風呂から流れてきた大量の水が舞い上がった。


 水は渦となって、雨に変わった。水がパイロンの魔力と呼応して、更に質量を持つ。より強まった雨が、段々と嵐へと変わる。


「ほう、猫は水に弱いと踏んで、雨攻撃とな」


 バケツをひっくり返したような嵐に、古代竜が身体を濡らす。

 毛玉で覆われた全身が、雨を吸って重くなっているはず。


 しかし、台風クラスの嵐を食らっても、塵竜は指一本揺るがない。


「これが貴様らの切り札か。期待するだけ無駄だったかのう」


 それは、攻撃を受け続けられてから言うべきだ。


「な、これは!」


 ようやく利いてきたか。


 雨を浴び、塵竜の顔から余裕が消える。


「貴様、雨に細工を施したな!?」


「おうさ。セスキ炭酸ソーダをふんだんに含ませた大嵐だ。その量は約一トン!」


 俺が風呂にまき散らしたのは、大量のセスキソーダである。セスキを含んだ水をパイロンの魔法で塵竜に浴びせたのだ。嵐として。


 真琴には、全国のホームセンターに置いてあるセスキ炭酸を、買えるだけ買ってきてもらったのだ。


「間に合いましたか」

 俺の側に降りた真琴が、額の汗を拭う。


「ぬうう、これは!?」

 ブレスで嵐を払おうとした塵竜の動きが止まった。

 セスキを吸い込んでしまったのだろう。盛大にむせる。


「ぐえええ!」


 塵竜の身体を覆っていた魔素が、セスキを含んだ嵐によって払われていく。


「ばかな。魔力が、失われていく!」


 毛玉に蓄えていた魔素を削られ、塵竜がヒザから崩れ落ちる。

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