反撃準備万端

「だからどうだと言うのだ、人間よ」


「パイロンが魔王の継承者だって認めろよ」


 ドラゴン族には必要なくとも、俺達や、他の魔族には必要とされている。


 何より、こいつのお袋さんは、こいつが好きすぎて顔がニキビだらけになっても手作りお菓子を食ってたという。

 それは、愛情がないとできないことだ。


 塵竜からは、反論の言葉が出ない。認めてもらえたか?


「其方の言い分はわかる。此度の働きを見て、その点は私も同感だ。ザイオンの娘よ」


「それじゃあ……」

 退いてくれると思われたが。


「しかし、まだ貴様が王だとは認められん」


 その期待はあっさりと裏切られる。


「なぜだ?」


 頭の固いヤツだな。何が気に入らないというんだ?


「この世界が実力社会だからだ」


 そう言われて、さっきまで自信に満ちていたパイロンが塞ぎ込む。


「魔界は強さこそ全て。私に傷一つ付けられんようでは、存在を否定せざるを得ない。悔しければ私を打ち倒してみせい。ザイオンに匹敵すると言われたこの私をな!」


 かつてない程の瘴気を放出し、塵竜が凄む。


「もし、私に勝てなければ、再びザイオンを決着を付けて、今度こそ息の根を止めて見せようぞ!」


 うつむいてしまったパイロンの肩に、俺は手を置く。


「そうか、なら話は簡単だ。分からせてやろうじゃないか。パイロンがどれだけ強いか。パイロンが魔界の王にどれだけ相応しいか」


「爽慈郎……」


 諦めかけていたパイロンの瞳に。光が戻ってくる。


「心配するな。見せてやろう。掃除科学の力を。俺達ダストバスターズの絆をな」


「うん!」


 その意気だ、パイロン。


『爽慈郎様。用意ができました』


 鎧を通じて、真琴から連絡が入った。


「すぐに行く。クヌギ、ちょっと時間を稼いでくれないか?」


「承知。お主には借りがあるでのう」


 戦意を喪失しているパイロンに代わり、クヌギが攻撃を一手に引き受ける。


「真琴と作戦会議をしてくる。ここを死守してくれ」

 俺は真琴と合流するために、城へと引き返す。


 俺は、真琴にある物を買い込んでもらい、大浴場へと運んでもらっていた。


 台車に乗せられているのは、大量の粉末だ。数一〇キロは用意してある。


 事前に清掃していた浴場には、湯の代わりに水が張られていた。誰も入る予定はないが、俺が水を張っておいたのだ。露天風呂にも全部、水が入れられている。


「あとは、これを浴場へ」

 湯船の中へ、買ってきた粉末を流し込む。


「パイロン、雨を降らせられるか?」

「できるよ。天候操作は得意」


 ならよかった。これはパイロンに手伝ってもらわないと成立しない。


「俺が注意を引きつけるから、お前は雨を降らせてくれ。あいつを洗い流せるほどに強烈なヤツを」


 年寄りの冷や水ってヤツをお見舞いしてやる。

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