パイロンとダストドラゴンと

 捨て身でサポートした甲斐あって、クヌギが塵竜の懐に切り込む。


「小娘が!」

 塵竜が、シッポと爪で地面を抉った。


 土や岩が、無造作に俺達へと襲いかかる。


 雷と岩とを同時に相手にしては、クヌギの刀ですら庇いきれない。


 一回り大きな岩が、パイロンに迫ってくる。


 俺に魔力を送り込むことで精一杯で、パイロンは対処が遅れた。


 真琴が火球を撃ち込んだが、それでも岩を完全破壊するまでには到らない。


「させるか!」


 身を挺して、俺は岩を防ぐ。


 小さくなったとはいえ、殺人的な速さで飛んできた岩だ。


 鎧だけでなく、自分のアバラが数本折れた音を聞いた。着地できずに倒れ込む。


「そんな、爽慈郎!」

「大丈夫だ。この鎧、結構頑丈だから」


 俺の方は、まるで頑丈ではないが。


「やせ我慢はよせ、人間よ。生身は無事ではあるまい」


 塵竜の言うとおりだ。俺の身体はほとんど動けない。


「そうだよ。無茶しないで爽慈郎!」

 大急ぎで、パイロンが俺に回復魔法を注ぎ込む。


 急激に、俺の身体から痛みと傷が癒えていく。とはいえ、疲労までは消えない。


 なんとか、塵竜ダストドラゴンの瘴気を一気に払う方法はないか。


「すまない真琴、頼みがある」


 俺は兜に備え付けてある魔法無線で、真琴とコンタクトを取る。


『承知致しました。手配いたします』


 真琴は通信を切った。


 俺は、パイロンにも作戦を教える。


「考えがあるのだな? 何をしても同じ事だ、人間よ。おとなしく潰されい!」


 岩石のような前足が上がって、俺に上で制止した。


 塵竜の巨大な足の裏が俺に迫る。


 足が俺の指示を受けない。疲労が蓄積されて、思うように動かせないんだ。このまま押し潰されてしまうのか。


 だが、塵竜の前足が俺を踏んづける事はなかった。


 そうなる前に、俺の身体は浮遊していたからである。


 俺は今、パイロンの手によってお姫様抱っこされている状態だ。


「塵竜様、矛をお納め下さい。竜と魔族は、共存できないのでしょうか?」


「竜と魔族は相反する存在。其方の考えは、我々の関係に必ずやひずみを生む。貴様が魔界の統治を継ぐ事、認めるわけにはいかん」


 竜と魔族は敵同士だという掟を、塵竜は頑なに貫く。


「待ってくれ、竜の爺さん」

「この私を爺ぃ呼ばわりとは。言ってくれるのう、小僧」

「結論づけるのは待てと言っている!」


 怒気を孕む声に怯えることなく、俺は言葉を続ける。


 こいつは確かに面白魔族だ。部屋を散らかしまくった挙げ句、掃除は人任せにする。


 俺も、こいつが世界最強種族の血を引く存在だとは、未だに信じられない。


「けどな、それでも信頼してくれる奴らがいるんだ。こいつを頼って色んな魔物がやってくるのを俺は見てきた。パイロンが魔族にとって必要な存在だってのは分かったんだ」

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