クヌギ復活!

 疲労が脚にき始めた。ヒザが笑ってる。息も上がってきた。


 北の魔神、洗脳されたクヌギに続いて、最強の竜が相手だ。やはり、連戦は無理があったか。


 だが、俺が倒れてしまったら、パイロンが。


「しまった!」


 何度モップの先を交換した直後、岩のような硬さのシッポ攻撃が迫ってきた。


「ヤバイ!」

「爽慈郎!?」


 駆けつけようとするパイロンを、俺は手を払って引っ込ませる。このままでは、パイロンを道連れにしてしまう。


 だが、救世主は遅れてやってきた。


 澄んだ海の色をした刀が、鋼鉄のシッポを弾き返す。


「うむ?」と、驚きと好奇心が入り交じった声を、竜が発した。


「クヌギ!」

「すまぬ。遅れた」


 クヌギは、いつものオレンジ色の浴衣を羽織っている。海色

の刀を鞘に収めた。


「大丈夫なのか?」

「身体は、な。まだ頭の方は、ボーッとしているが」

「無理するなよ」


「承知」と、クヌギは刀に指をかける。


 新しく現れた敵を相手に、塵竜が爪を繰り出す。

「ほう。達人クラスの隠し球がいたとは」


「塵竜よ、それがしのメンツを潰した借り、返させてもらう」


 クヌギの刀と、塵竜の爪が幾度も火花を散らす。


 刀を取り戻したクヌギの本気は、洗脳されていたときとは比較にならない。体格差などものともせず、塵竜と打ち合う。


 素人の俺には、早すぎて攻防が見えない。


 殺菌の具足にも、速さに対応できる機能は付いているが、それですら捉えられずにいる。


「少しはできるようだのう。ではこれは受けきれるか?」

 古代竜を覆う塵が空中を舞う。


「ホコリが舞ってるから何だっていうんだ? PM二・五の方がまだ身体に悪そうだぞ」


「我が塵にはこういう使い方もあるのだ」

 バチバチ、と激しい電流が流れ、塵が雷を呼んだ。


「静電気か!」


 意志を持っているかの様に、塵が作った雷がクヌギを襲う。


 落雷ポイントを先読みして跳躍。クヌギは瞬時に場所を移動する。


 金属に反応してるのか。


 雷に行く手を阻まれ、クヌギが防戦を強いられる。


 クヌギは刀を横向きに構えた。回避しようとせず、雷を武器で受け流す気だ。


「こっちだ!」

 だったら、俺自身が避雷針となって、雷からクヌギを庇うまで。


 猛烈な光の集合体が、俺に突き刺さった。


「がああ!」

 身体を突き抜ける激痛に耐え、俺は踏ん張る。

 今まで感じたことのない痛みが、体中を駆け巡った。

 鎧を着ていなければ、黒焦げでは済まなかったに違いない。


「爽慈郎!?」

「無事か、爽慈郎殿!」


 心配する二人を俺は制した。どうってことないとアピールする。


「パイロン、クヌギ、心配するな。俺に構わず行け!」

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