ダストドラゴン戦

 俺はモップを槍のように突き出して前に出る。


 口元を吊り上げていた塵竜の顔色が、目に見えて険しくなった。


「人の子よ、お主に用はない。ワシはザイオンの娘に用があるのだ」


「俺は貴様に用事があるのだ。おとなしくキレイに磨かれろ。その後は元の巣に帰るんだな」


 さらに前に出て、モップの先端を竜に向ける。


「面白い。人の子よ、ならばワシを止めてみせい!」


 塵竜の魔力が膨れ上がるのが分かった。


 北の魔神が最強だと思っていたが、その数倍はあるのではないかと思える。


 恐れが身体から吹き出しそうになるのを堪え、構えを維持した。


「お前なんかに負ける気はない。俺には清掃会社を立ち上げるという夢がある。その夢の前に、お前をキレイにしてやろう」


「そこまで言うなら、この身体にこびりついた魔素、根こそぎ拭き取ってみよ!」

 グルルルと、殺人毛玉がノドを振るわせる。


「俺から離れるなよ、パイロン」


「うん。爽慈郎も気をつけてね」

 パイロンが、俺の背後で魔力を練り上げた。


 殺菌の具足が、更に強度を増す。


「連係プレイで戦おう」


「そうだな。さすがに一人じゃ荷が重い」


 二〇メートル強の巨体が俺を圧倒する。柱のような前足が、俺を踏みつぶそうと迫ってきた。


 俺は紙一重でかわし、モップで前足を撫でる。


 ヘドロの様な魔素がへばり付き、モップの部分があっという間に使い物にならなくなった。


「いちいち交換しないといけないか」


 魔素を浄化している間、急いでモップを交換する。


「厄介な術を使う。我が魔力を直接でも削ぎ落とすか。ならば!」


 壁が押し寄せてきた。いや、これは塵竜のシッポだ。恐ろしい速さで、シッポが突っ込んできた。


 俺は亀のように丸まってジャンプする。


 ガンッという音が俺の背中で鳴った。背負ってたシールドが、シッポと接触したんだ。


 車にはねられたような衝撃が、背中を押す。


 北の魔神からもらった騎士の魂が、バン、と音を立てて弾け飛ぶ。たった一発食らっただけで使い物にならなくなるとは。このシールドが護ってくれなければ、俺がこの盾のように砕けていただろう。


 コイツのシッポはどんだけ殺人的な威力なんだ? 猫なんだからもっとモフモフしているべきだ。


「伏せて、爽慈郎!」


 パイロンが、石鹸を宝石サイズの魔力石に混ぜて魔力を注ぎ込む。虹色のシャボンが、パイロンの両手から放たれた。


 俺が磨き損ねた背面部分に、泡の濁流が染み込む。


「ぬうう、さすがザイオンの娘というべきか」


 シャボンの群が、巨大龍の全身を覆い尽くす。


 だが、この調子じゃどれくらい掃除が必要なんだ? 作業工程が、魔神の比じゃない。

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