ダストドラゴン、目覚める!

「でも、倒しきれなかったんだよね、パパでも魂までは奪えなかったんだよ。だから封印してた。それを、わたしがふざけて復活させちゃったんだよね」


 そんな大物と戦うのかよ? こいつは、大仕事だぞ。


 魔王城最下層、最深部に辿り着く。


「こんなところに、山が」


 最も光が届かない場所に、壮大な岩山がそびえ立っている。まだ先があるらしい。


「この山を越えたら、ドラゴンに会えるのか?」


「近づいたらダメ!」

 不注意に進もうとした俺を、パイロンが引っ張った。


 俺の兜に備え付けられていたらしい警報装置が、全力でアラームを鳴らす。


「なんだなんだ?」



『ですから、目の前にある山が塵竜です!』



 なんだと?


「こいつが、塵竜……」



 影と同化したような真っ黒い巨体が、ゆっくりとその姿を起こす。



「よくぞここまで辿り着いた。ザイオンの娘、そして人の子よ」



 ドロッと粘つくような声色が、闇の奥から聞こえてきた。異界へ引きずり込んでいくような、重みと深みのある声だ。

 全長は二〇メートルはあろうか。



 いかにも巨大生物って感じの四つ足の……猫。



「わーかわいい猫だなー、って猫じゃねーかっ!」



 真っ黒い猫が、身体を横たえていた。

 体育館の屋根くらいバカでかい翼を、背中に携えている。


 俺が山だと思っていた存在は、デブ猫の背中だったのだ。



 毛玉の山が一部、ドドド、と開く。

 裂けた穴から、赤い目が姿を見せた。血の塊のような瞳が、ギョロリとこちらを向く。


「こいつは、ドラゴンだよな?」


「ドラゴンって、いわゆる幻獣だからね。どんな姿も取るんだよ。猫っぽいドラゴンがいても不思議じゃないよ」


 その発想はなかった。


 猫型ドラゴンが動く度に毛玉が舞う。生え替わりの時期なのか?


『かつて、魔界を納めていた塵竜は、魔王ザイオン様と戦い、力と魔界を統治する権利を奪われました』


「じゃあ、このデブ猫はずっと、復讐の機会を窺っていたと」


『そうです』


 失った力は、この地に封印されていたという。この魔王城自体が、巨大な封印だったらしい。


「我が眠りを覚ましたのは、ザイオンの娘、其方か?」


「その通りです。ごめんなさい。けれど、再びおやすみできるようにします。ですから、おとなしくしてて下さい」



「ククク。このワシを再び眠りにつかせると言い張るとは。肝の据わった娘よ」


 猫型竜は笑う。

 愉快そうに古の竜はノドを振るわせた。


 ああ、猫だなやっぱり。


「おい、パイロンはマジでイカレてるが、やるときはやる女だ。それを侮辱するのは許さない」

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