魔王城地下 歴史展示場

 翌日、俺は快調の状態で、目を覚ます。


 パイロンと真琴も、万全なようだ。


 クヌギはまだ、夢の中にいる。精神的に相当ダメージが大きかったらしい。あの刀を使った事による消耗も激しかったようだ。


「クヌギちゃんの魔力を、注ぎ込んで扱う刀だから」


「そうか。無理していたんだな」

 俺は再度、殺菌の具足に着替えた。


「できればもうちょっと、掃除に専念したかったんだが」


 現在、魔王城の掃除は九割方終わっている。だが、点検に回りたい。


「ご安心を。爽慈郎さまの掃除レベルは、もはやカンストと言っていいでしょう」


 真琴によると、北の魔神やクヌギと戦ったことで、俺の魔力は飛躍的にレベルアップしているらしい。


「稼働しているスケルトンの数も、現在一〇〇万体を超えています。もはやスキマなくキレイにすることが可能かと」


 香川県の総人口に匹敵するじゃねえか……。


 それだけガイコツがいれば、掃除もあっという間に終わるだろう。


 今は、ラスボスに専念するか。 


「行くぞパイロン。ドラゴンのいるところまで案内しろ」


 どうせこの城をキレイにするためには、そのドラゴンと接触しなければならない。


 クヌギを真琴に任せ、俺達は先へと進む。


「ここだな?」


 俺が立ち入ったのは、彫刻の展示場だ。


 魔王が世界各地を侵略してきた歴史が、壁一面に刻まれている。


 壁に鹿の頭、狼や熊に紛れて、異世界の巨獣など、台の上に置かれた石像がひしめいている。

 雪男のような像が、俺を威嚇するように指を差す。


「襲ってこないな」


 いつものパターンなら、この彫刻達が動いて、俺達を襲うはずだった。しかし、今回はその展開がない。


「怖くて逃げちゃった?」


「そんなチキン野郎だったらラクなんだけどな。けど、そんなわけないよな。ケンカする気でなければ、あんなタンカは切れない」


「マーゴットはどう思う?」


 腕輪を通して、パイロンが真琴と通信する。


『そうですね。全ての力を自身に結集させているのではないでしょうか? その証拠に、操られていた全てのモンスター達から、魔素が除去されています。離脱した魔素は、一カ所に集中しています』


「それが、ここだってワケだね?」

『その通りです。お嬢様、お気を付けて』



 なるほど、戦力を分散させて魔素を含んだホコリを除去されるより、自分を一気に強化して圧倒しようって事か。


 ノートの一部を指差す。そこには、魔族の戦いの歴史が記録されていた。


 遙か昔、魔族と世界を二分していた種族、竜族。そのボスが最強のエルダードラゴン・塵竜である。


「最後まで世界の覇権を争い、ザイオンによって倒された竜の王、と描いてあるな」

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