黒幕は塵竜《ダスト・ドラゴン》

「何かわかったか?」


「え、ええ。確証はありませんが、この城に詳しく、大量の魔力を所持し、行使できる人物には、心当たりがあります」


「誰だよ、そんなヤツ?」


「ザイオン閣下。この城の所有者であり、魔王と呼ばれている人物です」


 俺は背筋が伸びる感覚を覚えた。緊張が身体中を駆け巡る。


「パパが、この騒動を起こしたって言うの?」

「はい。それ以外に考えられません」


 確信を突いたとばかりに、真琴は断言した。


「わかった。じゃあ、パイロンの親父さんを説得すれば、全てが収まるってワケか」


 俺がパイロンと真琴に向けて告げると、どこから笑い声が響く。



「ククク、果たしてそううまくいくかな?」




 言語としては聞き取れるギリギリの濁った声が、俺の耳を穢す。




「今の声は?」


 聞き取った者の魂を食らうような、おぞましい声だったが。


塵竜ダスト・ドラゴン古代竜エルダー・ドラゴンの頂点に位置している竜です。我々の手に負えず、封印していました」


「対象に塵を付着させて、操る術を使うんだよ」


 さっきまで掃除した、魔素を含んだホコリがそうか。

 相手が塵やホコリなら、俺でも戦えるはずだ。


「まさか、塵竜がパパと手を組むなんて」

「仲が悪いのか?」

「そりゃあもう。魔族とドラゴンは、古くから魔界の覇権を争ってたんだから」


 宿命のライバルってヤツか。


「それが、なんでタッグなんか組んだんだ?」


 仲の悪い者同士が手を組むなんて、余程の理由がないと。


「多分、わたしのせい、かな……」

 視線を逸らしながらパイロンが呟く。


「お前が部屋を散らかしていたのがバレた?」

「いや、ううん。多分違う」


 だとしたら、それ以外の理由なんてあるか?


「爽慈郎様をこの城にお連れしたことが原因かと」


 俺のせいだと?


「待てよ。俺は正式にお前達に雇われた掃除屋だぞ。なんでお前達が責められないといけないんだよ?」


「だから、男を連れ込んだと思われてる」


「なんだって? ただの清掃屋を呼んだだけじゃないか」


 俺はそのつもりで城に来たつもりだが。


「ああ、そうでした。爽慈郎様ってそういう人ですよね」

「だよねー。仕事とプライベートは徹底的に分けるタイプだよねー」


 俺が言うと、なぜか二人はちょっとガッカリそうな顔をした。


「わかった。話を付けに行こう。そのドラゴンに会わせろ」


 パイロンと真琴が青ざめる。


「塵竜と面会なさるおつもりですか?」

「ヤバイよ! 殺されるって!」


 二人に引き留められたが、意思を曲げる気はない。


「どの道戦わないといけないんだろ? だったら早い方がいい」


「かも知れません。ですが、今は身体を休めて下さい。お二方ともボロボロです」


 確かに。クヌギですらダウンしているんだ。体制が整っていない状態でラスボスに挑んでも、返り討ちに遭うだけ。


 多少ロスしても、休んでいこう。

 この日は丸一日分、身体を休ませた。

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