クヌギ戦、決着!


 俺を見つけたクヌギが、突きを放つ。


「ダメェ!」

 パイロンがクヌギの足下に爆炎を起こす。


「ハア、ハア」

 頬を伝う汗を、パイロンが手首で拭った。魔力が減ってきてるのか。


 このままではあいつだって消耗してしまう。パイロンは俺に魔力を注ぎ続けてるんだ。遊んでいる余裕はない。



 チャンスは一度きり。



「おいクヌギ、こっちだ!」

 洗剤の入った霧吹きを、クヌギに向けて投げ飛ばす。


 何事もなかったかのように、クヌギは容器を斬り捨てる。


 緑色の中身が床じゅうに飛び散った。目つぶしすらならない。


 クヌギの剣が、武器を失った俺の正面に振り落とされる。穏やかさを誘うはずの青い光が、殺意をむき出しにして襲いかかってきた。


「ぬおおお!」

 俺は両手で、振り下ろされた刀を受け止める。真剣白刃取り、というやつだ。


 だが、重い剣圧を最後まで受け止めきれなかった。剣圧に負けて、具足のカブトが縦に割られてしまう。


「爽慈郎!」

 響く、パイロンの悲痛な叫び。


 しかし、カブトから顔を出したのは、スケルトンだ。


 バケツを被っているからわからないが、一瞬クヌギが躊躇った様子を見せた気がした。

 

 クヌギに容器を投げる数分前、俺は柱の陰に隠れていたスケルトンを発見する。


 さっきぶつかったのは、スケルトンだったのだ。


 身体が柱に隠れたわずかなタイミングで、スケルトンと入れ替わったのである。


 隙を突いて、俺はスケルトンの背後から、クヌギと肉迫する。


 クヌギが対処しようとするが、スケルトンに刀をホールドされて動けない。


 困惑するクヌギが刀を放す。


 好機! 俺は刀の瘴気を、雑巾で拭き取った。


 手刀を放ち、クヌギが俺の首を落とそうとする。情け容赦ない攻撃を。


 クヌギが動きを止めたのは、刀の瘴気を拭き取り終えた後だった。


「さっきお前が斬ったのは、強力な粘性洗剤だ。雑巾で軽くサッと拭くだけで汚れが落ちる代物だ」


 霧吹きの容器に入れておいたのも、「中身は水っぽいものだ」とクヌギに誤認させるためだ。


 容器を投げたのも、目つぶしが目的ではない。洗剤を刀に塗らせるのが目的だった。その間に、スケルトンと入れ替わっていたが。


 気がつくと、俺の首へ手刀が迫っていたことに気づく。その距離はわずかに数ミリ。恐怖で俺は腰を抜かして尻餅をついた。


 クヌギが、ダランと前傾姿勢になる。


 被っていたバケツ型カブトが、ガランと音を立てて落下した。


 クヌギ目に光が戻っていく。洗脳が解けたらしい。グラリとバランスを崩し、クヌギが倒れ込む。


 俺は両腕でしっかりと、クヌギの身体を抱きしめる。


「クヌギちゃん!」


 パイロンが呼びかけるが、応答はない。だが、生きてはいるようだ。


「かなり消耗しているな」

 意識が戻らないクヌギを背負うことにした。

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