死闘、VSクヌギ!

「動きが読めない」


「ドレスのせいだよ。あの長いドレスが、クヌギちゃんの足さばきを隠してる」


 ただのファッションじゃないってワケか。


 クヌギは普段、動きやすい割烹着を選ぶよな合理主義者だ。

 どうしてドレスなどを着ているのか不思議だったが。


 着物だと動いたとき、スリットから足さばきが見える。

 それでスカートにしたのか。


「でもハイヒールじゃないか!」


 踵の高い靴で、瞬間移動みたいな動きをするなんて。


「クヌギちゃんクラスだと、スパイクと変わりないよ!」


 綿飴のような純白の影が迫ってきた。


 クヌギは俺との距離をゼロにする。


 月を描くような軌道を刀が描く。


 ハンガーで受け止めるか……ダメだ。押さえきれない。受け流すことさえ難しいだろう。


 仕方なく、ハンガーを犠牲にした。腰からハンガーを抜き取る。


 流れるような斬りが、下から飛んできた。


 かろうじて剣戟を受け流すも、ハンガーがボロボロになってしまった。換えのハンガーを腰から引き出す。


 驚異の爆発力で、クヌギがまた攻め立てる。


 早い、重い、そして、美しい。

 こんな強い相手と、パイロンは互角に戦っていたのか。


「しまった」

 間合いを読み誤り、クヌギの横薙ぎを避けきれない。


「爽慈郎!」

 咄嗟にパイロンが魔法を放つ。


 俺の隣に氷柱が突き出た。


 刀が氷に引っかかる。

 

 氷は更に冷たさを増し、刀を凍らせた。


 クヌギはヒールで刀を蹴って、氷を砕く。


「これなら!」

 クヌギが氷に手こずっている間に、パイロンは炎の弾を無数に作り上げていた。


 膨大な数の火炎弾が、クヌギの逃げ場を奪う。


 刀を振り回し、クヌギは火炎弾を弾く。まるで刀を相手にダンスを踊るように。


 クヌギの剣捌きに見とれている間に、俺は自分が真っ二つになるのを見た。


 だが、それは幻だ。本物の俺は、一ミリズレた位置で立っている。


 秘剣・陽炎だな。さっきクヌギが斬ったのは、水蒸気の塊だ。


「油断しないで。わたしの鎧でも、まだクヌギちゃんの動きを捉え切れていない」


 パイロンの警告は、肌で感じ取っている。


 殺菌の具足に、煙が走っていた。

 僅かに数ミリ、切り裂かれた跡が残っている。

 少しでも切っ先がズレていたら、俺はゴミと化していた。

 

 首を振って雑念を振り払う。余計なことを考えていたら確実にやられる。


「せっかく作ってもらった殺菌の具足が」


 攻撃をかわす度に、ブゥン、ブォンと光の剣が耳元で唸った。


 この音だけでも恐怖をかき立てられる。


 こんな接近戦に良く耐えられたな、パイロンは。


 剣を避けて、俺は柱の陰に隠れた。ホコリ型の瘴気を一気に取るために持ってきていた道具を、懐から取り出す。


「うわっ!」

 よそ見をしていたら、俺の身体に何かがぶつかった。



 こいつは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る