ウエディングドレス姿の侍

 遥か先まで続く薄暗い廊下、天井を支える白い柱が並木道のように立ち並ぶ。いかにもな終点だ。巨大な魔力の探索も、終わりが近い。


 奧に赤い扉がある。


「あの奧に、マーゴットとクヌギがいるんだな?」

「そのはずだよ。ゴールは……待って!」


 パイロンの声に、俺は立ち止まった。


 柱の陰から、鉄のカブトを被った少女が現れた。カブトはバケツの様な形状で、目の位置に小さな四角い穴が空いている。


 バケツは、褐色の肌の上に、ウェディングドレスを着ていた。手に刀を携えて。


「クヌギちゃん、なの?」


「あいつはクヌギだ。魔力の籠もった塵に、取り込まれてしまったんだ」


 刀が、蒼い光を放つ。澄んだ海を想像させた。その姿は、本来の力を取り戻したかのよう。


「やけに小さいウェディングドレスだな?」


「いつかクヌギちゃんに着せようと思って、フリマで見つけたの」


「バケツみたいなカブトも、フリマの戦利品か?」


「魔界では『不運のカブト』って呼ばれててさ。ウチで浄化できないかな、って思ったんだけど」


 今のクヌギは禍々しい姿となって、パイロンの前に立っている。


「クヌギちゃん、どうして」


 パイロンが呼んでも、クヌギから応答はない。あんなにも懐いていたはずなのに。


「どうやら、クヌギがおかしくなったのは、あの刀のせいらしいな」


 俺達を逃がすために塵の元凶と交戦していたクヌギは、魔王城に置いてあった刀のパーツに触れたのではないか。

 

 ずっと探し求めていた宝物の存在が、クヌギの心に油断を生んだ。

 彼女はこの刀が勝利を運んでくれると、信じて疑わなかった。


 けれど、刀は塵によって、既に汚染されていたのだろう。


 結果、クヌギの精神は、穢れを吸った刀によって侵蝕された。

 守り神であるはずの刀に、クヌギは精神を乗っ取られたのではないか。


 その証拠に、クヌギの持つ刀から、異様な密度の汚染物質が検出された。


「そんな。それじゃあクヌギちゃんは」


 刀の力で増幅された瘴気に、取り込まれた。


 巧妙な精神的トラップを、クヌギに踏ませるとは。

 

 瘴気の元は、相当に頭の切れるヤツらしい。


「あの刀をどうにかしない限り、クヌギは取り戻せんな」


「そうだね。手伝おうか? さすがにクヌギちゃんを一人で相手するわけには」


 俺は「いいや、いい」と首を振った。


 殺菌の具足メイル・オブ・ピューリファイを作るだけでも、パイロンは消耗している。これ以上、余計に働かせるわけにはいかない。


「やれるだけやってみる。任せろ。絶対にクヌギをホコリから取り戻す」


 モップを槍のように構えて、間合いを測る。


 刀を真一文字に構え、クヌギがこちらに突撃してきた。ウェディングドレスのスカートがはためく。ドレスの長さも気にならない速度で、クヌギは間合いを一気に詰めてくる。


 魔力強化されたモップで、刀を受け止めた。


 以前パイロンと戦ったときより動きがいい。これがクヌギの本気か。


 それだけではない。


 刀からクヌギに、魔力が流れ込んでいるのが分かった。


 クヌギの魔力とシンクロし、より戦闘力がアップしている。

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