北の魔神、撃退!

「たかが柑橘類ごときで、このあふれ出る魔力を取り除けるものか!」


「試してみるか? クエン酸は侮れないぜ!」


 ポケットから取り出したレモンを手に、魔神の攻撃を避け続ける。


 回避する度に、レモンを魔神の鎧や盾に塗りたくった。鎧に込められた魔力を両手に集中させて、超高速で盾を磨く。


 懸命に磨いたおかげで、魔神の身体はすっかりピカピカになっている。


「ぬうう!」


 魔神も反撃するが、力を奪われて続けている状態では、俺に剣戟を浴びせる頃はできない。なすがままに、俺のレモン磨きを食らう。


「おおおお……」

 とうとう、北の魔神が攻撃をやめた。


「チェックメイトだ。ナイトさんよ」

「ああ、そのようだ」

 剣を構えた姿勢のままで、北の魔神は真横へ倒れ込んだ。浄化が完了した。


 魔神の盾に浮かぶ顔は、すっかり穏やかになっている。



 正気に戻ったガイコツを呼び寄せ、武器庫を片付けさせた。


 他の金属製品も、レモンを使ってきれいに磨いていく。


 その間、パイロンは休憩しつつ、北の魔神がここへ来た経緯を聞いてもらう。


「あのエルフ侍は強かった。剣一本での勝負、しかも一対一で負けたのは久しい」

 四天王といえど、手も足も出なかったらしい。


「ふむふむ。クヌギちゃんと戦って返り討ちに遭ったってワケなのね」

「それで、謎の塵によって力を得て、エルフ侍にリベンジを果たそうとした矢先」


「俺達がやってきた、と」


 歴戦の傷が体中にあって、その隙間に埃が溜まったんだな。


「焦げ跡が頑固だったが、どうやってできたかわかるか?」

「火を噴く竜が我に挑んだこともある。あのブレスは強力だった。それではないかと」


 なるほど。どおりで他の連中と比べて、汚れ度合いがしつこかったわけだ。


 盾が「うむ」と肯定する。「恥ずかしながら、気がつけば我が負けていた」


「クヌギちゃんはどこ? マーゴットも一緒にいたはずだけど?」


 魔神は「わからぬ」と呟く。「本当だ。パイロンお嬢様に嘘は言わぬ」


「わかってるよ。自分で探すから、ゆっくり休んでて」

 盾が穏やかな顔になり、俺に向き直る。


「見事だ、人の子よ。だが、次に立ちはだかる敵は、貴様には荷が重いだろうな」

 不穏な言葉を、魔神の持っていた盾が漏らす。


「どんなやつが来ようと、俺は掃除するだけだ」

「その心意気やよし。我を倒した聞こうならあるいは」


 盾はそれ以上言葉を発しなくなった。魔力が抜け、鎧その物へと戻ったのだろう。


 全ての金属製品を拭き終わり、次なる敵に備える。

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