ミミック!


「お嬢様、ここは私が」

 クヌギに引き続き、真琴まで離脱すると言い出した。


「マーゴット、相手は騎士タイプだよ。魔法使いのあなたでは」

「お嬢様だって、魔法使いではありませんか」

「でも」


「ここは、部下に見せ場を譲る場面です。お急ぎを」

 真琴は、自分と俺たちの間に、見えない障壁を張った。自身を閉じ込め、騎士共の行く手を阻む作戦だ。


 俺たちは走った。


 背後から聞こえる剣と魔法の応酬らしき音を耳にしながら。


 スケルトンをかいくぐり、ひとまずパイロンの部屋の近くまでたどり着く。


「ストップ!」

 先頭を歩いていたパイロンが、足を止める。


「何かいる」

 もうすぐパイロンの部屋なのだが、扉の前に、何かが置かれていた。宝箱?


「あんな所に宝箱が?」


 なんでこんな所に宝箱が放置されているんだ?


 考えていたら、箱のフタが開いた。フタの端には、牙のようなギザギザの刃が何本も生えている。


「ぐひひひ! うまそうな人間だ! 噛ませろ!」

 箱が飛び跳ねながら、俺に向かって襲いかかってきた。


「なんだこいつは!?」

「ミミックだよ!」


 こいつがゲームとかでよく見るトラップか。

 飛び退くと、トラバサミのように箱が閉じる。

 また口が開き、俺に向かって噛みつこうとした。

 その度に避けるが、足の限界も近い。


「避けきれるか、人間の分際で!」


 狭い廊下で逃げ場を失う。壁に身体をぶつけ、尻餅をついてしまう。


 俺は持っていたモップの先を、ミミックの喉元に突き刺す。


 ミミックはモップをスナック菓子のように噛み砕く。ギザギザの歯が、今にも俺の上腕に届きそうだ。


「さあ、おとなしく食われろ!」


「爽慈郎!」


 パイロンが魔法を唱えようとするが、思いとどまる。俺に当たってしまうと思ったのだ。


 こうなったら。


「くそ、これでも食らえ!」


 俺は、ポケットに忍ばせていた白い物体を、ミミックに投げつける。


「ぐあああ! グアグア!」

 口の中に異物が入り、ミミックが飛び跳ねて苦しがった。


 その隙に、俺はミミックから離れる。


「くっそーっ! 口の中かがスースーする! この野郎、何を食わせやがった!」


 ペッペッとツバを吐くように異物を吐き出そうとした、だが、異物は口の中にピッタリと貼り付いて離れない。


「防虫剤だ。虫歯が酷かったんでな」


「うぎゃああーっ! 虫歯に染みるーっ!」


 尚も暴れるミミックを置いて、俺はパイロンの手を引く。


 その後、俺は振り返らなかった。


「くそぉ、絶対食い殺してやるぞ人間風情がぁ!」

 ミミックはまだ生きているようだ。


 身を切られる思いで、俺はパイロンの私室へ。

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