リアル キノコタケノコ戦争

 食べ物で遊んではいけません。


 子供の頃、そうやって注意されなかった人はいないはずだ。


 しかし、魔王城のキッチンでは、食べ物「が」遊んでいる。


「弾を持ってこい!」

 喋っているのは、小指の第一関節くらいのクラッカーにキノコ型のチョコが乗った、一口大のお菓子だ。


 市販のお菓子であるが、今のこいつらにはクラッカー生地の手足が付いている。木のトゲくらいに小さいトンプソン銃で武装までしていた。

 物陰に隠れながら、キノコチョコが他のキノコチョコにマガジンをもらう。


 銃からは弾丸ではなく、水鉄砲のようにチョコが撃ち出された。


「第一包囲網が突破されました! もう持ちません!」


「負傷兵を速やかに回収して、残存兵を防御に回せ。第二防衛網を死守しろ! ここはオレに任せて先に行け!」


 キノコ兵士が部下を基地へと誘導している間、ずっと援護射撃する。


 対抗しているのは、円錐型のクッキーにタケノコ型のチョコが塗られたお菓子だ。

「すべてのキノコは駆逐せよ!」

 絶叫しながら、固定バルカンを乱射する。こちらも弾丸はチョコレートだ。


 弾が当たったキノコは、チョコまみれになって倒れ込む。


「これが俗に言う『タケノコの城・キノコの街戦争』だよ」


 パイロンの声が聞こえたのか、武装した菓子共が一斉にこちらを向いた。


「敵襲ぅ!」


 ドバドバドバ、とチョコ銃が俺たちに向かって放出される。


 チョコが服に付着し、甘い匂いが服にこびりつく。


「アラクネは?」


「隅っこで伸びています」


 確かに、アラクネは目をバツ印にしてひっくり返っている。


「こりゃダメだ。引き上げよう」


 チョコでベタベタになりながら、撤退した。


「これも、魔素が城じゅうに広がった影響か?」


「そうだよ」


「どうにかならないのか?」


「ダメ。呼び出したわたしたちでも、どうにもならなかったもん」


 パイロン達が呼び出したのか、あれを?


「最強のドラゴンを喚ぼうとしたんだけど、召喚に失敗しちゃって。封印をやり直したんだよ」


 無茶な奴らだ。


「なんでドラゴンなんか呼び出そうとしたんだよ」


「それは……危ない!」


 まるで看板のような物体が、俺の首筋を横切った。パイロンが俺を突き飛ばしてくれなかったら、俺の首は吹っ飛んでいただろう。


「なんだ、こいつらは?」


 鎧の騎士達が立っていた。銀色に輝く鎧の表面には、魔素がビッシリとこびりついていた。それぞれ、剣や槍を持って武装している。


「ここって、武器庫か」


「瘴気を吸って、武器庫から出てきたみたいだね」

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