パイロンへの認識

 後片付けを済ませた俺は、先に魔王城へと着いた。持ち帰った屋台の清掃を始める。キレイになった屋台を倉庫へ戻す。


 二人はまだ帰ってない。最後の会議があるらしい。


「今帰ったぞ」と、クヌギがドアを開けた。


 ドアが開くなり、温かい身体の感触が、俺の身体に覆い被さる。


「おい、大丈夫かパイロン?」


 シャンプーの香りが俺の鼻をくすぐった。クラクラしそうになる。


 さすがに、三人とも水着から私服に着替えていた。


 が、パイロンの無駄に色っぽい肌色映像が、一瞬で蘇ってくる。


 パイロンにもたれかかられ、俺は身動きが取れなくなった。踏ん張りがきかず、倒れそうになる。


 クヌギが、俺を後ろから支えてくれた。


「パイロン、どうした?」


「さすがに疲れたのでしょう。炎天下で立ちっぱなし、最後は走り回ってましたから。このまま寝室まで連れて行って下さいませんか?」


「そうだな。このまま俺にもたれた状態になられるのも困るし」


「シャワーは浴びてます。そのまま寝かせてしまって結構ですので」


 私室へ移動して、パイロンをベッドに落とす。

 横たわったことにすら気づかず、パイロンは寝息を立てる。


「さて、俺はこのまま作業に戻ろう」


 クヌギが仕留めた巨大イカはキレイに処分できた。しかし、肝心の清掃業はだいぶ遅れている。俺達が留守の間にスケルトンが簡単な掃除はやってくれていたが、細かい指示が出せなかったのが痛い。


 席を立とうとした途端、パイロンが俺の手を掴む。かと思えば、腕ごと抱きしめてきた。


「こいつ、寝ぼけてるな」


 手を振り解こうとしても、パイロンは手を離さない。

 仕方ない。今日はこいつに付き添うか。スケルトンは遠隔操作もできるし。


「それにしても、今日は驚かされた」


「何がだ。爽慈郎殿?」

 俺の問いかけをクヌギが拾う。


「だって、あれって全部あいつのアイデアなんだろ?」

「うむ。現地でお決めになっていたな」


 その場の思いつきか。


「普通さ、そういう考えって空回りするじゃん。でも、こいつはアイデアをキチンと形にして客に提供して成功したんだろ。それってセンスが必要だ」


 普段はボーッとして、やる気がなさそうなのに。


 俺は単に、在庫を処分することばかり考えていた。


 パイロンのアイデアがなかったら、今回の祭りは実に味気ない物へと変わっていたんではないか? 


 発想力や即決力が抜群だからこそ、パイロンは至る所で引っ張りだこなんだろう。

 こいつがいたから、イカも処分できたし、客も喜んでいた。


 認識を改めよう。

 パイロンの発想力や企画力、判断力は評価すべきだ。


「俺、今日思ったんだけどさ、こいつって、意外と……その」

 中々言い出せなくて、俺は口ごもる。


「お嬢様が意外と、何なのです?」

 急かすような口調で、真琴は迫る。


「こいつって、案外かわ、いい所あるよな」


「かわいい、ですか」


 壊れた人形のように、俺はコクコクと頷く。


「ふふーん」


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