夏休みの予定

「お前が頼んでたんじゃないのか?」


「頼まないよ。イカ焼きがあるのに」


 勝手にパイロンが頼んだと判断してしまった。嫌がらせの注文を真に受けてしまったようだ。


「すまん。食ってしまったからクーリングオフできんな」


 俺は、パイロンの家に誰かがイタズラでピザを頼んだのだろう、と結論づける。


「いいよ。お腹空いたし。気にしないで食べよ」


 マルゲリータを囲んで、おやつタイムとなった。


「それにしても誰だったんだ? お前、嫌がらせを受ける心当たりはあるか?」


「ザイオン様には、敵が多いですからね」


 なるほど。心当たりがありすぎると。


「父親のとばっちりを受けた感じか」

「ん? わたしが恨まれてるって考えないんだ?」


 俺はうなずいた。


「お前は恨みを買うような感じには見えないからな。性格悪い女には見えないから」


「うううん」

 なぜか、パイロンの顔がだんだんと赤くなっていく。


「どうした? 何か悪いことでも」


「違うよ。違うけど、そういうところだよぉ」


 手をモジモジさせて、パイロンは俺の顔を見た。


 あまり見つめないで欲しい。俺も気恥ずかしくなってくる。


「そうそう。文化祭の企画をクラスで話してみた。通ったぞ」


「思いの外、好評でしたね」と、クラスメイトの真琴も同意した。


 満場一致で決定したときは、夢でも見ているのかと思ったが。


「ホント? 言ってみるもんだね」


 その分、俺の負担は増大したけどな。


「お前のおかげで、終業式当日にやっと企画が決まった。これで懸念材料がなくなった。ありがとう」


「えへへ~」

 照れながら、パイロンの顔が緩む。


 こいつは、企画力に関しては鋭い感性を持っている。

 対象が何を望んでいるのかを嗅ぎ分ける力も高い。

 今回の企画も、パイロンの洞察力のおかげで通ったようなものだ。


「と、ところでっ、掃除は進んだ?」


 何をごまかそうとしているのか、急にパイロンが話題を変えた。身体をモジモジさせている。


「まあまあだな。そっちの方は順調なのか?」

「うん。あとは本番を待つばかりだね」


「悪いな。当日は用事なんだよ」


「えー、もう夏休みだよね?」


 その日はどうしても抜けられないバイトがある。


 清掃員の新人を育てる大事な仕事だ。夏休みはそれにずっと取りかかろうと思っていたのだ。


 本当を言うと、サボって手伝おうかとも思ったが、ただでさえ休みがちなので、どうしても出ないと信用をなくす。


「本業を優先してね。わたし達の事は心配しないで」

「ああ。すまんな」


 俺も、バイトをおろそかにしないつもりだった。



 バイト先のホワイトボードを見るまでは。

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