パイロン社長
「あれ、シフトが白紙になってる!」
俺の仕事が、すべてなくなったのだ。
クビになったわけではないが、本来俺が引き受けていた仕事は、別の社員がやってくれるという。
社長に聞いたら、原因は増員しすぎだとか。彼らを育てるために、仕事を経験させるらしい。
「だったら俺が教育係を……それも、他の人が引き受けてくれたんですか」
聞けば、リーダー候補の一人がやけに張り切っていて、オレの出る幕はないらしい。
そいつは俺の幼馴染みだ。あいつなら間違いないか。面倒見もいいしな。
「そうですか。じゃあ、俺の仕事は……別口で依頼? はい。わかりました」
えらいことになったな。一ヶ月丸々空いた。しかも、別の仕事が入ったという。しかも、先方はもう来ているというのだ。
これでさらに忙しくなるだろう。パイロンの城に行く時間も調整しないと。
社長に連れられて、接客ルームへ。
「失礼しま……うげっ!」
なんと、そこにいたのはパイロンと真琴だった。二人は俺達を見るなり、立ち上がって頭を下げる。
パイロンはワインレッドのスーツを決めていた。足を茶色いストッキングが包み込む。俺に向かって、社長に見えないように
「やっほー」と手間で振ってくる余裕まで見せた。
真琴も学生だとバレないようにか、黒のスーツでビシッと着こなしている。こちらは知性とエレガントさが初めから備わっていた。
「ダストバスターズ社の社長で、
パイロンが名刺を社長に渡す。初めて俺の前に現れたときに使った偽名だ。
俺は呆然としつつ、社長の隣に座った。
「ほう、学生さんで経営者と。ははぁ」
「女子高生で社長という方がいます。学生起業家なんて、さして珍しくはないかと」
「いやはや確かに」
パイロンの嘘経歴を見て、社長はかなり乗り気だ。
まさに俺は心ここにあらず、だ。
「では、冷泉爽慈郎くんを我が社の主任清掃員として……」
俺がパイロンに頼まれたのは、清掃員の教育と現場指揮である。
つまり、ヘッドハンティングだ。
パイロンが社長と対話してくれたおかげで、俺は夏休みの間じゅう、心置きなく魔王城を清掃できる算段となった。
『まさかお前、起業したのか!?』
服の上から、ペンダントに触れた。これで、パイロンと会話できる。
『そうだよ』
『ダストバスターズって、俺が考えた会社名じゃないか』
ロゴまで作ってあるし。しかも、俺より絵が上手い。
『勝手な。俺はここで結構貢献しているはずだから、社長が手放すかどうか』
会話が何一つ頭に入ってこない。右から左へすり抜けていく。
補導されたかのように、俺はおとなしくなっていた。
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