関西風イカ焼き

「おお、そうだ。パイロン殿に土産があったのだ」

 ポンと、クヌギが手を叩く。


「お土産ってどこ?」

「玄関に置いてある」


 クヌギに付き添い、玄関へと向かう。


「おい、なんか魚介類の臭いが充満しているんだが?」

 通路を歩くたびに、ツンとした生臭さが強くなる。不快ではないので、異臭とは言わないが。


「では、ご覧あれ」

 玄関の門を開く。


「どわっ!?」と、俺は思わず声をあげた。


 そこには、ぐったりした特大のイカが鎮座していた。城の門を完全に塞ぐのではというスケールだ。


「ここに来る前に仕留めたのだ。ぜひ、皆さんで食べて頂きたい」


 これ、イカ焼きにすると何人分になるかな?


「これ、どうしよう。おっきすぎて冷蔵庫にも入らない。アラクネもこんなに大量には食べられないよ」


「何か、問題でも?」


 放心状態のパイロンの代わりに、真琴が事情を説明する。


「なるほど、其としたことが」


「いや、クヌギちゃんのせいじゃないから」

 

 頭を抱えだしたクヌギを、パイロンが慰めた。 


「クラーケンって、人間でも食えるのか?」


 見た目的には、ただでかいだけで、普通のイカと大して変わらない。


「そうだよ。味は地球のイカと変わらないし、栄養価も高いし」


 だが、俺からすれば十分だ。むしろイカの方が丁度いい。


「いい事を思いついた。俺がなんとかする」


「ホント? やったー」


 まずは、このクラーケンを刻まないと。


「クヌギ、このイカを細切れにしてもらえるか?」

「造作もないっ」


 クヌギの反応は早かった。迷惑をかけたと、責任を感じているのだろう。

 あっという間に、イカは食べ頃サイズにまで細かく寸断された。

 

 切り身をキッチンへと運ぶ。スケルトンも総動員である。


「今から、イカ焼きを作る。味が気に入ったら、屋台で出せ」

「イカ焼きだよね。丸焼きだよ?」

「違う。俺が作るイカ焼きは関西風だ」


 パイロンは固まった。何を言われているのか分からない感じで。


「ほら、あるだろ。今だと惣菜風のクレープとか」


「うん。あるよ。当日は、ウチの隣にタコスのキッチンカーが入るから、お惣菜系は出す気ないけど」


 説明しても、パイロンはピンときていない様子である。


 あっ、そうか。こいつは「関西風イカ焼き」を知らないのだ。


「よし。じゃあイカ処分祭りの始まりだ」


 まず、人数分の生地を作る。水で溶いた小麦粉の中に、刻んだイカをぶち込む。


 俺はバッグを開けた。平べったい両面フライパンを、コンロに置く。


「これが、イカ焼き器?」

 パイロンが不思議そうな顔で器具を弄ぶ。

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