クヌギのファッションショー

「やっぱり、私の見込んだとおりだよ!」

 目をキラキラとさせながら、パイロンがクヌギの姿を拝んだ。


「納得できん……」

 フリル付きのワンピースを着せられ、クヌギはゲンナリしている。


 もう何着目だろう。終わりのないファッションショーに付き合わされ、クヌギは限界を迎えていた。


 別人のようにオシャレな姿になったとはいえ。


「お前、自分のお古を全部クヌギにあげるつもりか?」

「そうだよ。見た感じ、一張羅だけみたいだったし」


 処分するだけの運命だった子供服に使い道ができて、パイロンは張り切っている。


「確かに否定はせぬが。記念すべき初仕事がこれとは」

 ウンザリした様子で、クヌギが裾を掴んだ。


「かような乙女趣味全開な格好では、『ごうほうロリ』にますます拍車がかかってしまわぬか?」

「いや、結構似合ってるぞ」


「左様か。ならいいか」

 俺が褒めると、クヌギははにかむ。


「人のお古は嫌か?」

「数が多すぎて疲れているだけだ。それに、部屋まで用立ててもらって、断るわけにもいくまい」


 照れはあるようだが、脱ぎ捨てようとしない辺り、気に入ってるのかも知れない。


「どれが一番好きだった?」


「これぞ。この深い色が、鮮やかで素晴らしい」

 クヌギが最も興味を引かれたのは、浴衣だ。鮮やかな色合いの橙色が、気に入ったという。


「これ、子供の頃に買ってもらった浴衣だよ。一番のお気に入りだったの」


 二人は感性が似ているのか、同じような物を好んだ。


「この着物に、これが合うのだ」

 白い服を手に取り、クヌギが袖を通す。


 パフスリーブのスモックを思わせるが、どこか和風の香りを漂わせる。


「それ、小学校の給食当番の時に使ってた割烹着なんだけど?」


「この割烹着が、また清潔感があってよい」


 エプロンより、割烹着の方がいいみたいだな。確かに、褐色の肌に白い割烹着は良く映える。


「すごい。写真撮りたい」


 割烹着に身を包むクヌギを見ながら、パイロンがうっとりした。


「これを着て、掃除とか手伝ってくれる?」


「承知した。なんなりとお申し付け下され」

 これで、優秀な人材が確保できた。


「ただし、従うのはパイロン殿のみ。人の子よ、お主の指示を聞く気はござらぬ」


「それでいいよ。俺もお前さんを押さえつけようなんて思ってないから」


 要は魔王城さえ片づけばいい。


「ほう、てっきり先輩風を吹かすのかと」


 俺の返答が意外だったのか、クヌギは眼を大きく見開く。


 誰が上とか下とかはなしだ。今は立場を競うような状況じゃないからな。



「承知した。このクヌギ、微力ながら協力させて頂く。人の子よ、助言を頼む」


冷泉れいぜん 爽慈郎そうじろうだ。こちらこそよろしく頼む」

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