クヌギ入社!

「されど、砦の守り主がいなくては不便なのでは?」

 クヌギは難色を示す。


「北の魔神さえ倒されなかったら余裕だから」

「左様か。しかして」


 パイロンが安心させようとしたが、クヌギはあくまでも四天王として勤めたいと意見を曲げない。


「ところで、お前の剣、変わってるな」

 突破口を開くために、話題を逸らす。


「おお、これか。見る目が良いぞ人の子よ」

 鼻息を荒くして、クヌギが説明する。


「実はのう、この剣は折れているのだ。その破片がこの世界のどこかにあるはずなのだが、どうも魔王ザイオンの財宝の中に眠っていると」


 これは、当たりかも知れない。


「おお、それなら是非見に行ってくれ。丁度、その辺を掃除しようと考えていた所なんだ」


「ほほう。して人の子よ、気になって追ったのだが、其方はなぜこの城に」


「財宝や家屋の品質管理や調査だ。魔物だと見えない物を見るのが仕事だ」


 パイロンの威厳を保つため、部屋の掃除に来たことは伏せた。


 これでまたひとつ、パイロンに貸しを作れたかな。


「なるほど。ならば、宝物庫の掃除を手伝おうぞ」

「やってくれるか?」


 うむ、とクヌギもまんざらではない様子だ。


「もし、秘剣の片割れを発見できた際には、今度こそ四天王として」


「うんうん。迎え入れられるようにパパに説得してみる。それか、わたしが従える四天王の一人になってもらおうかな?」


 おお、とクヌギがどよめく。

「そんなことも可能であるか?」


「クヌギちゃんさえよければ」


「一理ある。そもそも、其はパイロン殿に破れたのだからな」

 クヌギはノリ気になった。トントン拍子に話が進む。


「でも、お給料とかは少ないよ。わたし、パパほど大きいお仕事してないし」


「心配ご無用。其は燃費もいいし、仕事さえ与えてくれれば働くぞ」


 エルフは金を使う習慣がほぼないため、金には困ってないらしい。水分も川の水や木の幹から摂取し、食事も野菜がほとんどだ。


 そう、真琴が教えてくれた。


「金銭より忠義に意味があるのだ。誇れるか誇れぬか、これが重要なのである」


「なら、掃除をやってちょうだいと言われたら、やってくれるのかな?」


「主の頼みだ。引き受けよう」


「じゃあ、さっそく手伝ってくれ」


 休憩は終わりだ。俺は立ち上がって、準備を始めた。


 パイロンに、初めての部下が誕生した瞬間である。


「それで、早速仕事をいただきたいのだが」


「ああ! それなら、ぴったりの仕事があるよ!」

 パイロンがパンと手を叩いた。


 おおお、とクヌギが色めき立つ。

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