クヌギの目的

「お前、首を切られたんじゃ……」


「あれは炎と水で作った幻だよ」

 パイロンの口調が、いつもの調子に戻っていた。


「秘剣・陽炎。四天王最強、『白の女王』の技か」

 負けを宣言したクヌギが、その場に正座をする。「参った」と一言だけ漏らす。


「其は、不採用か?」


 首を振ってパイロンがクヌギと向き合った。炎の剣もしまう。

「いいえ。四天王最強である北の魔神を撃ち倒した事、わたしをここまで追い詰めた事は見事の一言に尽きます。よってわたし、パイロンはあなたを魔王城へ招き入れようと思います」


 うつむいていたクヌギが、ハッと顔を上げる。


 パイロンが兜を脱ぎ、クヌギに手を差し伸べた。


「ようこそ、魔王城へ。パイロン・ネゥムは、あなたを歓迎しますよー」

 パイロンは、魔王の娘なんていう威厳など吹っ飛ばす。クヌギにいつものポヤンとした笑顔を振る舞った。


「それはそうと、パイロン」

「へ?」


 俺が後ろを指差す。「燃え移るぞ」


 雑草の燃えかすが、今にもバラ園に発火しそうになっていた。


「ぎゃああああああ!」


 氷結の魔法や雨の魔法を連発して、パイロンは消火作業に取りかかる。


「ハア、ハア……危なかった」

 もう火種がないのを確認すると、パイロンはホッと肩を撫で下ろす。


 茶会の場所を闘技場からパイロンの部屋に移し、再度コーヒー牛乳が振る舞われた。


「ん、うまい。甘さと酸っぱさがバランスよく入ってる」


 パイロンお手製のクレープまでご馳走になった。薄手の生地にフルーツと生クリームが詰まっている。


「ホントにパイロンが作ったのか?」


「ネットで作り方覚えたから完璧だよ?」

 口元に生クリームを付けながら、パイロンが自慢をした。


「結局、クヌギはここへは何しに来たんだ?」


「下界の言葉を借りれば、就職活動というヤツだ。四天王に空きができたというでな」

 クヌギがジョッキを煽る。


「どうしたんだ、パイロン?」

 パイロンは、お菓子を食べようとした手が止まっている。まるで石像のように動かない。


「それって、東の四天王だよね?」

 パイロンはお菓子を持ったままの手を置く。


「左様。四天王最強と名高い『白の女王』。本当は、彼女と戦う為に、ワタシは下界へ降りて来たのだ。できれば一度、相まみえたかったが」

 しみじみとエルフは語る。


「そっかー」

 話を聞こうという気配を見せず、パイロンは目を逸らす。


「おい、パイロン、マジでどうしたんだ?」


「いやさ、白の女王っていうのさ、わたしのママなんだよね」

 困り顔で、パイロンがつぶやいた。


 そうだったのか。

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