決闘という名の草刈り
俺は、真琴に耳打ちして、アイデアを提示した。
「いいかも知れません。では、相談してみましょう」
真琴がおもむろに、パイロンとクヌギの勝負を中断させた。
突きの体勢を維持したまま、パイロンが停止する。
クヌギはパイロンの刺突を背面跳びの要領で避け、首に斬りかかる状態を維持していた。
「どうしたの?」
「真剣勝負に水を差すとは。これだから人の子は部を弁えぬ……」
勝負に横槍を入れられ、二人は少々不機嫌気味だ。
だが、部外者のままな俺の心中も察してもらいたい!
「申し訳ございません。実は、戦闘場所を変更していただきたく」
真琴の提案は、二人にとっては意外だったらしく、戦闘の熱すら冷まさせている。
「この石畳では不服か?」
怪訝な顔を、クヌギは浮かべた。
「そうではありません。ただ、面白みには欠けるかと、あちらの御仁が」
恐縮しながら、真琴は俺を指差す。
このまま戦闘をしても、千日手になりそうだったしな。
「人の子よ、どこなら映えるというのだ? そもそも、戦とは見栄えを気にするものではない」
「実は、近くにバラ園があるんだ。そこで戦わないか?」
俺の言葉を受けて、クヌギは渋い顔をした。
「それでは、せっかく育てたバラが邪魔で、まともに戦えぬではないか」
「そこがいいんだよ。二人には不自由な状態で戦ってもらう」
俺が提案したのは、バラを散らさずに戦う事だ。
雑草はいくらでも斬り捨ててもいいが、バラは一輪も切ってはいけないルールである。パイロンにとっては、魔法も使用できないため、苦戦を強いられるだろう。
「どうだ? それだけの剣術があれば、できないことはないだろ?」
俺の言い方は、プライドの高いエルフを納得させるに十分な説得力を持ったらしい。
「よかろう」とOKサインをいただけた。あとはパイロンだけだが。
「だが、それではパイロン殿に不利では? 魔法すら禁止なのでは」
「できるもん!」
ムッとした顔になって、パイロンが反論した。
「……コホン。何を言うか。我はそこまで不器用ではない!」
素に戻っていたのを思いだし、慌てて口調を直す。
今更取り繕ったって遅いっての。
「じゃあ、やれんのか?」
「やらいでか!」
口調が元に戻ったぞ、パイロン。
まんまとパイロン達をおだてることに成功。心の中でガッツポーズを取る。
「仕切り直しだ、クヌギ殿。勝負はバラ園にて」
雑草だらけのバラ園を舞台に、斬り合いが再開される。
俺の想像通りだ。
二人が攻撃を繰り返す度、雑草が斬り捨てられていく。
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