最強同士の戦い
これが、魔族同士の戦いか。まるで別世界の出来事だ。
凄まじいスピードで動いているため、俺の目は、二人の動きを捉えられずにいる。
「爽慈郎様、これを」
真琴から、メガネの形をしたアイテムを受け取った。
パイロンとクヌギが、視界に現れる。
「おお、見える」
目をこらすと、二人がどのように戦っているのかが手に取るように分かった。
パイロンは火の弾を数発撃ち込んで牽制しつつ、剣の打ち合いを避けて距離を取る。
一方、クヌギの方は間合いを詰めようと最小限の動きで魔法をかわす。
近づいて来たクヌギの光線剣を、パイロンが炎のレイピアで弾く。
「これを掛けていれば、数分の一の速度で動きを捉えることができます」
「追っかけ再生的なあれか」
「最初だけです。じきに目が慣れてきて、普通に認識できるようになります」
どちらが優勢なのかは分からない。ただ、実力は互角かと思う。
パイロンのレイピアが、光線剣を叩き落とす。
弾かれた衝撃でクヌギの身体が一回転した。光線剣の刀身が、ダラリと垂れ下がる。だが、側転で体勢を立て直したクヌギは、スピードを乗せて下から振り上げる。
対処の遅れたパイロンは、ゼロ距離で火の弾を撃ち込んだ。
光線剣で火の弾を受け止めるも、火の弾が炸裂。クヌギの身体が爆風で吹っ飛ぶ。
爆発の直前、パイロンは飛行術で退避していた。
「これ、ゲームじゃないんだよな?」
彼女たちが放つ熱、彼女たちが繰り出す暴力、彼女たちがぶつけ合うプライド、その全てがリアルだった。
これが異世界か。フィクションを越えた世界が俺の目の前に広がっている。俺は改めて、とんでもない世界に来てしまったんだな、と思わずにはいられない。
「俺にとってはファンタジーな世界でも、お前達にとってはこれがリアルなんだよな」
「ご安心下さい。決して爽慈郎様に危害が加えられることはありません。もし、何らかの驚異が爽慈郎様に迫るようでしたら、我々が全力でお守り致します故」
「そういう事じゃないんだよ」
俺は、こんなスケールのデカイ奴らと接しているってワケなんだ。
ここまでの相手を前に、俺の出る幕があるのか?
「蚊帳の外に放り出されたご気分を感じてらっしゃる、と?」
「まあな。俺、どうしてここにいるんだろうな、って、余計なことを考えてしまっていた」
掃除をしに来たはずなのに、こうしてパイロンの戦いを観戦している。
格闘技や映画に興味があれば多少は楽しめるんだろうが、こういうのは戦闘狂でないと喜ばないだろう。
かくいう俺も荒事は苦手だから、ケンカには関心がない。
凄いとは思うが。
「ちょっと、提案していいか?」
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