ごうほうロリ

 エルフか。俺も実物は初めて見た。しかも和装である。それにしても小さいな。小学生くらいにしか見えない。子供なのかな。


「無礼なり、人の子よ。これでも其は、御年一二〇歳になる」


「待て。俺は何も話してないぞ。俺の心を読んだのか?」


「そこまで高等な術は持ち合わせておらぬ。が、顔に書いてあった。其くらいになると、それくらい容易く可能になる」


 下手なことは考えない方がいいな。


「人間界の言葉を借りれば、ワタシはいわゆる『ごうほうロリ』という部類に当たる」


 自分で説明しなくていいよ。


「あいにく、主は留守である。我が名はパイロン・ネゥム。この城の主の娘である。我が城に用があるならば、娘であるわたしが聞こう」


「娘か。だが、凄まじい魔力が内蔵されているのが分かる。貴君を倒してから、魔王と戦う権利を得るとしよう」


 短い木刀を逆手に持ち、褐色エルフが棒切れに手をかける。


 ビヨン! と威勢のいい音がして、棒から蒼い光の筋が地面めがけて伸びた。


 あまりの早業に、俺はその場から飛び退く。あやうく腰を抜かしそうになった。


 光の筋は、身の丈よりやや長い。いわゆる光線剣か。それにしては長すぎるような。


「それがしくらいになると、この程度の長さは造作もない」


 また、心を読まれた。


「抜かれよ。『魔王の娘なれど、剣術の心得なし』とは言うまいて」


 クヌギが刀を持つ拳をパイロンへ向けて挑発する。恐れを知らぬ態度だ。


 パイロンはクヌギの方へ顔を向け、頷く。


「マーゴット、武器をちょうだい」

「仰せのままに」


 真琴がパイロンに一冊の本を差し出す。『武具辞典』と書かれた本を開く。


 パイロンが本に手を突っ込んだ。本の中へ、細い手がズブズブと入り込む。何かの感触を掴んだのか、パイロンは何かの武器を抜き出す。


 引き抜かれたのは、真っ赤なレイピアだ。これにも刃が付いていない。パイロンが念じると、柄から黄金の色をした炎が噴出した。灼熱の炎はパイロンの魔力を帯びて圧縮され、オレンジ色の刃となった。熱を帯びた刀身が陽炎を形成する。


 炎の細剣を二、三度振って、パイロンが正面に切っ先を突き出す。


「それが、貴公の得物か」

「いかにも。ではパイロン・ネゥム、お相手する」


 始まりの合図が出された瞬間、二人の姿が消えた。


 あちこちで炎が爆発し、火花が散る。


 俺はリングサイドで、装飾がされた椅子に腰掛け、真琴が淹れてくれたコーヒー牛乳を優雅にいただく。


 見えない。俺の目に映るのは、時々飛び散る火花だけ。それ以外は風が吹いているようにしか認識できない。

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