もらい物の再利用

 翌日、俺は朝から魔王城に出向く。向かうは衣装部屋だ。


「まだ、片付けられないか?」


 俺が呼びかけても、パイロンから応答はない。


 パイロンは、山盛りになった自分の洋服の前でへたり込み、ため息をつく。

「ふええ。やってもやっても終わらない」

 うなだれながら、パイロンが服を畳む。


 一応、片づけてはいるのだが、畳めども畳めども服が片付かない。


 もどかしげな表情で、真琴はパイロンを見守っていた。


「パイロンを手伝わないように」と、真琴には釘を刺している。


 こういう作業は、自分でやらないと頭に入らない。また片づけようとしても、身体が覚えていないと作業にならない。


「どれもこれも、思い出深い服ばっかりだし。アクセだって」


 思い出補正というものがある。こうなると片付けが難しい。


「真琴、これって魔王レベルの私物だろ? 何か魔法付与的なアイテムだったりするか?」


「一見、何の魔法加護も施されてません。が、並の金属鎧と比較しても一線を画します。指輪一つとっても、尋常ならざる対魔法防御性能を誇ります。冒険者を恒久的に守ってくれますよ」


 金属鎧より頑丈なドレスやアクセサリって、どんだけだよ。物理法則が摩訶不思議すぎる……。


 しかし、俺の考案するプランが、今の話でより現実的な物になった。


「ダンジョンとかに隠すとかは? どうせもらい物なんだから、特に支障はないと思う。所有者に話を通さないといけないが?」


「この地域のダンジョンだけでも、所有権はわたしになってるけど?」


 パイロンが担当しているダンジョンや塔、砦の類いは、三、四つほどだ。


 俺が助言すると、パイロンは少し考えた末、従うことにした。


「このジャージは置いておこっと」


「そうだな。気に入った物は置いておけばいい。着なくなったらまた処分すればいい」


 服を処分するコツは、自分が気に入るかそうでないか。

 極めて単純だ。

 むしろこれくらいシンプルな思考で処分していかないと、服はいつまでも溜まってしまう。


「このドレスは、もらった物なんだよね。どうしよっかなぁ?」


「気に入らないならダンジョン行きだな」


「うーん。派手すぎてわたしにはちょっと」


 コメントからして、ダンジョン行き確定だ。


「いいのかな?」


「断って怒るような人なのか?」


「ううん」とパイロンは首を振る。


 だったら迷うことはない。いくらもらい物でも、気に入らないなら処分してもいい。相手だって処分のつもりで渡しただろうから。


「向こうだって未練はないさ」

「そうだよね。じゃあ、ダンジョンに」


 だが、順調なのもここまでだった。またパイロンが悩み出す。

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