パイロンの弱点

「じゃあ、炭酸ソーダの効果を見てもらおう」


 パイロンと一緒に、排水溝を覗く。


「うわあ、キレイに汚れが取れてる!」


 黒ずんでいたパイプは、銀色の輝きを取り戻していた。ヌメリもない。


「すごいね、炭酸ソーダ!」

 その呼び方だと、炭酸が水回りに効果があるように聞こえてしまう。


「言っておくが、コーラを入れてもパイプはキレイにならんからな」

「そこまでバカじゃないモンっ」


 キッチン周りの掃除は、ひとまず完了した。


「じゃあ、俺は帰るから。お前はクレープの練習でもやってろ」

「はーい」と、元気にパイロンが返事した。

 俺がキッチンから出てた瞬間――ガラガラドッシャーン! と、豪快な物音が。

「どうした!?」

「ふええ、爽慈郎ぉ……」

 俺がドアを開けると、パイロンが突っ立っていた。クリームやトッピングのお菓子でドロドロになりながら、呆然としている。これはまた、スケルトンの助力が必要らしい。

「お前、どうなったら片付いたキッチンがそんなに汚れるんだよ?」

「うう、久々のお料理だから大失敗しちゃって」

「何事です?」

 騒ぎを聞きつけてか、真琴が厨房に現れた。顔を見るのも久々だ。

「また、魔法を使ったんですね?」

 真琴に指摘された。

 ギク、という言葉が具現化しそうなほど、パイロンの顔が固まる。

「いや、だってわたし、魔法を使わないと料理もロクにできなくて」

 その魔法ですら、ロクに使いこなせてないが。

「パイロン嬢、攻撃魔法以外は不得手ではないですか。私が代理で作りますから、お嬢様はじっとしていて下さい」

「やーだ。わたしもやりたい」

 なんとか真琴が窘めようとするが、パイロンは譲らない。

「不器用なんですから無理をなさらず」

「やるの!」


 散らかった食器類を片づけながら、真琴とパイロンが言い争う。


「だって、その日はマーゴットだって忙しいじゃん!」

「なんとかしますよ」


「ダメ! わたしがみんなをおもてなししたいの。お願いやらせて」

 手を合わせてパイロンが懇願する。


「仕方ありませんね。私も料理は自信ありませんが」と、諦めたように真琴はため息をつく。


「待て、調理時は俺も混ぜろ。知恵は貸してやれると思う。クレープはその時にでも」


 俺は帰り支度を始めた。


「泊まっていけばいいのに」


 ありがたい頼みだが、今は断る。


「夏休みになったらな。じゃあまた明日」

「次来るときまでに練習しておくから」


 俺は、親にどう言い訳しようか思案した。


 合宿だって言っておけば、誤解されないはずだ。

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