ハダカのおつきあい

「ああ、待てよ。内湯でいい」


「湯を張らなければ配管がサビ付いてしまいます。良い機会ですから是非」


 そう言ってくれるなら。


 階段のすぐ隣に、奥まで続く長い廊下があった。かなりの距離があるようだが。


 俺は、真琴に先導されて長い廊下を歩く。


「この向こうには何があるんだ?」

「使用人用の施設一式です」


 ここら一帯だけ、キレイに掃除がなされているのは、元いた使用人のおかげかな?


 そこには、ヒノキで組まれた露天風呂があった。

 メイドや執事の部屋の隣にある。


「大して汚れてないな」


 見ると、ここが一番汚れていない。


「ええ、そこは未使用ですので」


 露天風呂には湯が張られていない。人がいないから当然だが、二人も使っていないのか。


「もったいないな」


「奧に、もっと大きな大浴場がありますから」


 使わないんなら汚れないよな。ここまで広いと、未使用の部屋のあるのかも知れん。


「ちょっと待て。じゃあ、ここは誰も使わないのか?」


「使用人用の大浴場です」


 今は使用人が誰もいないから、使われてない、と。


「これだけの広さでか。贅沢だな」


「大所帯ですので。脱衣所の隣に全自動洗濯機がございます。なんなら、ワタクシが」


「自分で洗います!」


 どうせ明日も着るんだ。

 持ち帰らず、作業服は庭でも借りて干そう。


「さようですか。では、ごゆっくり」

 

 脱衣所前で、真琴は礼をした。


 露天風呂に白濁色の湯が張られている。


 足を付けると、程良い熱が足先から全身に巡っていった。


「ふう」


 湯船に身体を沈め、俺はホッと一息つく。思わずこれが漏れてしまう。魔界特有の効能なのか、身体中の疲れが一気に吹き飛んだ気がする。下手をすると、このまま寝てしまいそうだ。


 作業着は、真琴によって洗濯してもらっている。


「あったまる。ヒノキもいい香りだな」


 外から眺める夕焼けが美しい。魔界の夕焼けは紫色なのか。


「綺麗な光景でしょ?」


「ああ……なあ!?」

 横っ跳びで、俺は声がした方から距離を取った。


 俺の隣で、パイロンが湯船に浸かっているではないか。


 一糸まとわぬ姿で、ピンクのバスタオルを身体に巻いて。


「いつの間に!? ここ、混浴できる場所じゃないだろ。もうちょっと恥じらいってものをだなぁ!」


「いいじゃん。別に減るモンじゃないし」


 悪い気がして、俺は出ようとした。パイロンを見ないように、できるだけ背を向けて。


「爽慈郎は気にしないで。背中、流してあげるよ」

 俺が湯船から出ると、パイロンも付いてきた。


「もう出るから、お前はゆっくりしてろ」


「いいって。じゃあここに座って」

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