パイロン自室編③ パイロンの宝物

「じゃあ、次だ。小物は出してあるな?」


「はーい」

 机に、パイロンの私物が溢れかえる。全部、小さな引き出しに収納されていた物だ。


「じゃあ、失礼して」

 空になった引き出しを引っ張って全部出す。

「やっぱりな」


 引き出しには、牛乳パックで間仕切りがされている。


「これ、お前がやったのか?」


「そうだよぉ。キレイに片付いていたでしょ?」


 俺は、引き出しに施された細工を全て撤去した。


「えーなんで!?」


「キャパオーバーだ。お前、収納するために物を集めてるだろ?」


 ギク、と効果音が出そうなくらい、パイロンが硬直した。


 普通は物が溢れてから間仕切りするのだが、こいつは物を入れる前提で間仕切りをしている。だから、特定の小物しか収納できないのだ。


 収納ってのは、ある程度物がある状態でこそ、効果を発揮する。


 今のままでは収納の意味がない。使わない物を押し込んでいるだけ。


「まずは、物を処分しろ。間仕切りを考えるのはそれからだ」


 俺が指示を出すと、シュンとした顔で、パイロンは小物類を机に置いて行く。


「結構あるな。マジックアイテムとかもあるのか?」


 パイロンは首を振る。「ほとんど、趣味で買った物だけ」


「必要なのか?」


「これとこれだけは置いておきたい」

 エメラルドのブローチと、銀のネックレスだけを机から引っ張ってきた。


「これ、ママがくれた物なの」


 母親からもらった物なら、あまり雑多に使いたくないな。


「これに関しては、棚を片づけてから俺が工夫してやる」


 とにかく、今は生活面を確保していかないと。


「これって、どれくらい掛かりそう?」


「お前の部屋だけでも、だいたい最低……六時間くらいだな」


「六時間!?」

 うげえ、とパイロンが呻く。


 無理もない。俺だって、これほど散らかった場所は初めてだ。


 魔王城も、予想に反して広すぎる。これでは一ヶ月どころか、一年掛けても終わるかどうか分からない。


 真琴に聞いたところ、城には地下まであるという。こんなの一人じゃどうにもならない。


 確かにやり甲斐はある。

 実のところ、全て一人で片づけたいところだ。

 

 しかし、今回の掃除にはタイムリミットがある。時間は待ってくれない。少ない時間で、どうすべきか。


「お待たせ致しました。ゴミ捨ては一先ず完了です」

 パイロンの部屋に、真琴が戻ってきた。


 どうにもならない状況の中、俺は真琴に助けを求めた。

「なあ、誰か適当に人員を集めたいんだが、なんとかならないか? 俺のバイト先から数人ほど呼び出したい」


「不可能です」

 俺の提案は、真琴に却下された。

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