パイロン自室編② ニーソ生脱ぎ

「よし、いっちょあがり」


「その菱形は何?」


 俺は、ソファの隙間にハンガーを入れた。

「靴下棒って言ってな。古い靴下でも作れるんだ。これを、こういった隙間へ入れで擦ると……見てろ」


 ちょこっと靴下棒で床と家具の隙間を擦って、取り出す。


 ストッキングに、髪の毛や埃がこびりついている。


「うわああ……」

 唖然となったパイロンが顔をしかめた。


「静電気で細かい汚れを落とすことができる。汚くなったストッキングは、ポイッと」


 俺はハンガーからストッキングを外し、ゴミ箱へ。


「なるほど。ストッキングだけを捨てられるって事ね?」

 意図を理解してもらえて、俺は頷く。


「こうやって掃除を繰り返せば、床下がキレイになるぞ」

「すごーい。よーし、わたしもやってみよっ」

 

 パイロンがおもむろにスカートをたくし上げ、ニーソを脱いだ。


「ってええええ! 何やってんだ、お前!」


「だって、脱ぎたてホヤホヤの方がいいよね。静電気も必要だし」


 脱ぎたてニーソが、俺に手渡される。

 

 生暖かい感触が、俺の理性を削ぐ。


「伝線してるような使い古しでいいんだって」


「そう言わずに取っておいてよ、爽慈郎。お土産として」

 ふざけて、パイロンはホレホレとストッキングをちらつかせた。


「待て。俺はふざけたいわけじゃないから!」

 極めて平静を装い、ストッキングをハンガーに装着させる。


「次は書棚の隙間に……と。ほほお、これだけ取れると壮観だ」


 ストッキングの周りに、ホコリが山になってかき集められた。


「お前、何やってんだ?」


 パイロンの方を見てみると、脚を高々と上げて棚の上のホコリを取ろうとしている。ミニスカートを穿いているにも関わらずだ。


「ハンガーに付けなくたってさ、直接ニーソを穿いてスーってスライドさせたらさぁ、ホコリなんて簡単に取れるんじゃないの?」


 ソファの上でバランス悪くつま先立ちしているため、姿勢がカクカクとなっている。


「そんな無理な体勢になるからハンガーでやるんだ、って言ってるんだよ!」


 俺の注意も聞かず、パイロンは棚の上のホコリを取り除く。


 ストッキングに相当量のホコリが集まっていた。


「ホントだ。ふくらはぎが山脈みたいになっちゃった。ぎゃああ、思ってたより汚い!」

 自分でやっておきながら、ニーソを慌てて脱ぎ出す。


「あわわ、とっとっと!」


 ついに、パイロンがソファから転落した。


「ほれ見ろ、言わんこっちゃない!」


 すかさず、俺はハンガーを放り出してパイロンを抱える。

 地面スレスレの所で、どうにかキャッチした。

 落下は免れたか。


「危なかったな、パイロ……ン?」


 ムニュ、と俺の左手に心地よい感触が。恐る恐る感触の正体を視線で追う。


 うっとりした視線で、パイロンに見つめられる。


「うわわ、すまん!」

 申し訳なくなって、俺は瞬間的にパイロンから距離を取った。


「やだもー。大胆なんだから」

 特に嫌がる様子はなく、パイロンはトロンとした顔を浮かべる。


「アホか! お前が突っ込んできただけだ!」

 俺はパイロンをソファに落っことす。

 コイツはもう、やる気があるのかないのかわからん。

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