パイロンの役割

 床を磨く動きを止めて、俺は思考する。

「お前には重大な課題がある。主に洋服の収納だ」


 一瞬、何を言われているのかわからないといった様子を、パイロンは見せた。


「いくら俺でも、女のタンスは触れない。お前がどの服を好み、どの服に愛着がないか。そんなの俺には判断できん。お前が好きな服は、お前にしか分からない。タンスの中はお前が片づけるんだ」


「そんなあ!? こういうのは、やっぱりプロの手を借りないと」


 やっぱり、何でもかんでも手伝ってくれると思っていたようだ。


「下着とかを、俺に収納させたいのか?」


 俺の一言が利いたのか、パイロンは渋々収納へと向かう。


「衣装、アクセ、貴重品などの私物を、全部一カ所に集めておけ。俺も掃除が終わったら分別に協力してやるから」


 マスクを付けて、モップを掴む。


「平行してやらないの?」


「そうだ。ノープランで収納を始めると、後で散らかり具合がリバウンドするんだ」


「リバウンド? ゴミが?」


 不思議そうな顔を浮かべ、パイロンは首をかしげた。


「その辺もレクチャーしてやるから、今は言う事を聞いてくれ」


 頬を膨らませつつ、「はあい」と、パイロンが素直に答える。大丈夫なんだろうか。


「当分こっちは一人で大丈夫だ。自分の部屋の荷物を片づけろ。当面の掃除は、お前の部屋を最優先する」


「どうして?」

 不思議そうにパイロンは首を曲げた。


「リスポン地点だ。一言で言うと休憩所だな」


「ああ、『ここをキャンプ地とする』って奴だね?」

「……その解釈でいいよ、もう」


 一部屋が完璧に片付いていたら、一旦そこで休憩を取る。


 今は書庫しか片付いていない。

 部屋ごとに片づけ、どんどん行動範囲を広げていく予定だ。


 パイロンが自室の整頓をしている間、俺は移動しやすいように通路周辺を掃除して片づける。


「じゃあ、そこはちゃんとやっとけ。俺は外回りを一通り偵察する。その上で、掃除の段取りを考える。真琴、あんたは城内の案内を頼む」


「分かりました。では、このブレスレットをはめて下さい」


 真琴は、俺の手首に腕輪を巻く。


「おお、スマートウォッチか」


 デジタル時計だ。ヘキサグラムの紋章が施されている。


「他にも、パイロンお嬢様と連絡はこれで」


 使用方法を、真琴から教わった。数字の下にあるボタンで通話や体調・バイタル面の管理などができるらしい。


「何かあったら、その腕輪で知らせてね」


「分かった。じゃあ行ってくるから」

 パイロンを置き去りにして、俺は大まかな清掃作業を開始する。

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