厨房……ですか!?

「とにかく始めるか。ぬおおお!」


 絨毯の敷かれた廊下を、シートの付いたモップで床の汚れを拭き取っていく。

 できれば掃除機や電動クリーナーが欲しかったが、持ち出しに許可が必要な上に持ってくるのが大変なので断念した。

 もらった金で買えない事もないが、気が引ける。

 

 俺が周辺を掃除をする理由は二つある。


 ひとつはパイロンの掃除に対する意識をリサーチする事だ。

 どうせ失敗すると踏んでいる。


 もう一つは城全体の把握。

 

 どれだけの規模なんだろう。

 野球場どころじゃない。

 都市一つが丸々入るんじゃないか?

 

 ここら一帯を全て掃除するのは胸が躍る。

 けれど、物理的に不可能かも知れない。


 一通り掃除を済ませつつ、手を止めた。

 パイロンをあのまま作業させ、真琴を連れて城を散策する。

 いわゆるお宅訪問ってヤツだ。


 廊下を掃きつつ、厨房へ。


 客人をもてなす為か、かなり広大な空間である。

 ついこの間までプロがいたはずだが、誰もいないと寂しいもんだ。


 落書きだらけのホワイトボードだけが賑やかである。


「うわぁ、ひどいなこれは」


 想像以上の散らかり具合だった。Gが湧いていないのが不思議なくらいだ。


「シェフとか、コックはどうした?」


「旦那様が一人残らず連れて行ってしまいました」

 かなり手厳しいな。これも魔王修行の一環なのだろう。


「料理とか、どうしてたんだ? 料理できんのか?」


「パイロン様はコンビニ弁当にハマってしまって」


 確かに、大量の空き箱が部屋に散乱していたな。


『あのねー、キノコのクリームパスタがオススメだよー』


 スマートウォッチの魔方陣が光って、パイロンのバストアップが浮かび上がってきた。


「お前、栄養のバランスとか考えてないだろ?」


『考えてるもん。ちゃんと野菜ジュースは飲んでるよ。青汁を牛乳に溶かして飲んでるもん。今の青汁って甘いんだよーっ』


 何の自慢にもならん。


 物は出しっ放し、散らかしっぱなしと、衛生的に良くない。


 排水溝の中を覗く。


「おうふ……」

 やはり、臭いがきつい。これは掃除のしがいがある。


「よくこれで、ゴキブリが湧かなかったな」


「G類は、屋根裏部屋に住むアラクネに食べてもらっているので」


「アラクネ?」


 モンスターにGを食ってもらってるのか。


 換気扇の天助が僅かに開き、二つの大きな目が光った。


 俺は思わず声が引きつりそうになる。


 だが、危ない雰囲気はない。俺に敵対心を持っているわけでもなさそうだ。


 天井が少しだけ開き、人間サイズはあろう蜘蛛のシルエットが。あれがアラクネか。

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