戦闘準備!

「爽慈郎は逃げないよ。絶対に帰ってくるってわかるもん」

 初対面なのに異常なまでの信頼っぷりだ。


「だって、見ててすっごい嬉しそうなんだもん」


 魔王の娘の悪魔的な言葉に、俺は顔を撫でた。ヤバイ。顔に出ていたか。


 実際、楽しみなんだよな、掃除するの。


 ビルなどを、すべて一人で担当したことはあった。


 しかし、城ひとつ丸々掃除していいなんて、ご褒美以外の何ものでもない。


「よし、じゃあ準備するか」


 といっても手持ちがあったかな。高校生では、あまり贅沢な品は買えんが。


「ご心配なく、資金は潤沢に揃えてあります。せっかく部屋を片づけてくれるのです。資金の使用は惜しみません」


 真琴は何の躊躇いもなく、茶封筒を渡してきた。分厚くはないが、それなりに入っていそうだ。


「前金として、受け取ってください」


「悪いって。俺が勝手に盛り上がってるだけなのに」


「迷惑料も込みです。本来なら我々は、あなたにこのお金を持ち逃げされても文句が言えない立場にあるのですから」


「金の問題じゃ――」

 俺は、真琴に封筒を突き返そうとした。

 確かに金は欲しい。ただ、多すぎるのが問題なのであって。


「いいから受け取って」と、パイロンは無理やり上着のポケットに封筒を押し込んだ。やめろ、近いって、色々当たっちまうから離れろって!


「あのね、ビジネスをやるなら覚えておきなさい。こういうのは、お友達価格でやると、ぜええええーったいモメるんだから!」


 腰に手を当てて、パイロンがプンプンと怒る。


「じゃあ、ビジネスと割り切れ、と?」

 俺が確認すると、パイロンはうんうんとうなずいた。


「お金に関しては、そう思ってくださると。人を雇用するのも訓練であることをお忘れなきよう」


 真琴も、ビジネスライクな口調で、俺の考えを突き放す。

 

 こうでもしないと、押し問答になると判断した結果だろう。


 俺も意固地になりすぎたらしい。


「悪いな。ありがたく使わせてもらうぜ」

 内ポケットにしまった金に手を当てる。

「絶対に返すからな」


 必ず起業して、働いて返す。出世払いになってしまうが。


「律儀だなぁ。いいのに」

 パイロンがむくれた。


「あと、俺は迷惑だなんて思ってないから」


 むしろ感謝しているくらいだ。こんなに掃除しがいのある屋敷を用意してくれたのだから。


「じゃあ、また今度な。絶対戻ってくる。それまで待っていてくれ」


 魔方陣が作動して、俺は地球に帰ってきた。


 旧校舎にちゃんと帰れている。


 さっきまでの出来事は夢だったのか? 俺はバカにされた? 


 しかし、旧校舎の魔方陣はリアルに存在している。夢じゃないんだ。


 だったら、する事がある。

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