爽慈郎の夢
俺の頭が真っ白になる。
なんで、この二人が俺の目標について知っているんだ?
「失礼ながら、あなたの経歴を調べさせていただきました。お父上が掃除のプロだそうですね? それで、母上がお片付けの達人として、世界的に有名な方だと伺っています」
「お前ら、どこまで知ってるんだ?」
「清掃業でアルバイトをなさっているのでしょう?」
俺は頷いた。
両親も清掃業だが、後を継ぐ気はない。俺は俺で独自に起業の勉強をしているのだ。両親を越えるために。
クリーニング技術も、幼なじみから学んだ。クリーニング屋の娘なのである。
「さっきの掃除、すごかったよ。あっという間にキレイになって。それに、短時間なのに手を抜いてなかったじゃん」
「やがては、ご自分の清掃会社を設立するのが夢だとか」
「その通りだ」
「我々には、あなたの夢に対して資金援助をする準備ができております。ご協力して下さるなら、学生の身で企業も可能です」
真琴がアタッシュケースを取り出す。留め具に指を掛け、ケースを開く。
見たこともない額の札束が目に飛び込んできた。
「待て。そこまでしてもらう義理はない」
真琴の言葉を遮って、首を振る。
「この程度の額では、ご不満ですか?」
「そういう意味じゃない! ここまでしてもらう義理がないって言ってるんだ!」
確かに、かなり好待遇だ。断る義理はない。しかし、こんなイージーな約束でいいのか? 俺は、自問自答を繰り返す。
「オプションでわたしも付けるよ。私が投資家で、奥さんにもなるし」
パイロンが迫ってくる。どうしてこいつは俺の物になろうとしてるんだ?
「わかった。わかったから。そこまでの覚悟があるなら、俺も本気で挑ませてもらう」
「じゃあ、お城を片づけてくれる?」
俺は頷く。
やってやるさ。
こんなやりがいのあるミッション、久しぶりに腕が鳴る。
とはいうものの、これだけ広いと一日で移動しきれん。城全体の一〇分の一も見ていない。
「うわ、もうこんな時間じゃないか」
時計を見ると、夕方六時を回っていた。色々と見て回りたかったんだが、時間がなさ過ぎる。
「やるにしても、手持ちの洗剤やら道具やらがないと、ちょっと難しいな。一度元の世界に帰って、色々揃えたいんだが」
「その点はご心配なく。あなたは元の世界にいつでも帰れます」
「マジか! それはありがたい。また後日、掃除に取りかからせてもらう」
俺に絶対の信頼を寄せているワケか。逃げ出さないっていう確信があるから。
「どうして、そこまで信じてくれるんだ? 買い物なんて口実で、逃げ出すかも知れないぞ?」
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