色仕掛け?
「だって、まだ会って二、三時間くらいだぞ。そんな人間を信じるのか? ヒドイヤツかも知れないのに身体を許すなんて」
俺の脅しにも、パイロンは首を振るだけで、まるで堪えていない。
「爽慈郎は、嫌な人なの? 怖い高校生なの?」
首をかしげながら、パイロンは尋ねてくる。
俺は頭を抱えた。これは重傷だ。物を捨てる前に貞操観念を捨ててしまったらしい。
「わたしじゃ、嫌かな?」
潤んだ瞳で、パイロンが俺を見つめてくる。
「そういうわけじゃないが……」
胸が弾け飛びそうなほど跳ね上がった。発情というか、オスとして当然の反応というか、まあ、俺も男だっただけだ。
魅力的ではあるが、会ってまだ数分でこいつに恋愛感情なんて芽生えないし。
そう言い聞かせるが、パイロンが嫌いなわけじゃない。好意があるかはまだ自覚がないが、人当たりはいいので、好感は持っている。
「そ、そんな色仕掛けくらいで、俺がなびくとでも思ってるのか?」
「思ってないよ。でも、爽慈郎が望むこと、何だってしてあげるよ。デートとか、それ以上のことだって」
パイロンがにじり寄ってきた。
「やめろ。自分を大事にしてくれ。頼むから」
迫るパイロンから逃げるように、俺は後ずさる。
何かを思いついたかのように、パイロンが「ああ」、と、手をポンと叩く。
「……ひょっとして、マーゴットの方がタイプ?」
指名を受けた真琴が、メガネを直す。
「そこは盲点でした。調査不足です」
両手を頬に当てて、真琴がうっとりとした顔になった。
「そういう意味じゃない! 勝手に話を進めるな! 俺はパイロンに手を出す気はないと言ってるだけだ!」
「わたしの事、いらない?」
「自分の身体なんて簡単に捧げるなって言っているだけだ。俺だって男だ。お前のようなのに迫られたら……俺だって」
言っていて、気恥ずかしくなってきた。
「好意を持ってくれるのはありがたい。けど、こういうのはもっとよく考えてだなぁ。とにかく、自分を安売りして欲しくないんだ。俺も、こういうのは、ちゃんと、したいから」
どうして、俺の方が固くなってるんだ? 恋愛感情なんてないって自分で言ってるじゃないか。
「それってさぁ、わたしを大事に思ってくれている、って捉えていいのかな?」
顔が爆発しそうになるのを押さえながら、俺は無言で頷いた。何を言っても自爆してしまいそうだったから。
「ありがとね、爽慈郎」と、パイロンは無垢に微笑んだ。
どうやら分かってくれたらしい。
「でしたら、報酬は、起業の方がお望みでしょうか?」
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