報酬は……パイロン!?

 パイロンが魔王として一人前になる方法は、以下の通りだ。


『魔王の業務を数ヶ月間、できるだけパイロン一人でこなす』


「要するに自立しろ、と言うわけか」

「わかりやすくいうと、その通りです」


 真琴が側にいるのは、せいぜい話相手程度の立場しか許されてないらしい。


「じゃあ、俺が手伝うのもまずいんじゃないのか?」


「一人前になる為の要素は、人を雇う事も含まれています」


 つまり、 自分で人手を獲得すれば文句はない、ってことか。


「モンスターを雇った事もありました。単純な命令しか聞かず、細かい指示が理解できないので余計に部屋が散らかってしまうという事態に」


 なるほど、管理が難しいと。


「メイドは雇えなかったのか?」


 確かにパイロンはポンコツ残念女だが、腐っても魔王の娘だ。召使いぐらい脅すなり騙すなりで、どうにか集められそうだが。


「城の内装を見た瞬間に、逃げ出しました。『誰にも言わないから帰らせてくれ』と、土下座までされて」


 プロすら逃げ出すゴミ屋敷か。


「パイロン、お前よく平気だったな」


 今頃、魔王に殺されているところだ。


「だってぇ、これでも家では優等生を演じてるから。でも、今回はそれがアダになっちゃった感じで」


 さして、パイロンに悪びれる様子はない。


「だからお願い。お城を片づけて欲しいの」


「爽慈郎様にしか頼めない依頼でした。他のメイド達は、父である魔王様の味方です。パイロンお嬢様のポンコツっぷりを見たら、皆が一様に幻滅することでしょう。お嬢様は、メイド達にもグータラを隠しています故」


「あんたはよく知っているようだが?」


「私は司書であると同時に、パイロンお嬢様と同級生なので」


 だったら、パイロンは俺と同じくらいの歳かな?


「俺が屋敷を片づけたら、何かあるのか?」

「わたしを好きにしてもいいよぉ」


 あっけらかんと爆弾発言をしたぞ、こいつ。


「はあ!? ま、待てお前、じ、自分が何言ってるのかわかってるのか!?」


「わかってるよぉ。だって城全部を片づけてくれるんだもん。それくらいしないと」


 言いながら、パイロンが俺に胸を寄せて、見せつけてくる。


「おい志垣真琴、この脳みそお花畑の発言は真実なのか?」


「はい。パイロンお嬢様を好きにして構いません」


 どうやらマジらしい。


「冗談だろ……」


「冗談でこんな事、言えないよ? それくらいの大仕事を任せるんだもん」


 大まじめな顔になって、パイロンは告げる。


「ついでに言うと、わたし、まだ誰の物でもありません」


 こいつは何を言っているんだ?


「全てを爽慈郎様に捧げるお覚悟です」


 俺は頭を抱える。


「そう言うがなぁ、嫌じゃないのか?」


 俺が尋ねると、パイロンが「え、なんで?」と聞き返す。

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