魔王城はゴミ屋敷

 真琴が外へ続く扉を開ける。


 そこには、地獄が広がっていた。


「おう!?」

 異臭に耐えきれず、口を押さえる。俺はすぐに扉を閉じた。


 なんの臭いだ、これ。どこの夢の島を襲撃したらこんな臭いを放てるのかという激臭を放つ。


 惨劇は廊下から魔王の城全体に及んでいた。洋服も生活用品も、あちこちに転がっている。

 コンビニを占拠するヤンキーですらかわいく思えるほどだ。


 想像を絶する散らかり具合で、足の踏み場もない。

 どこをどうすれば、ここまで散らかせるのか。


 廊下を出てすぐの所に、木の扉があった。

 ピンク色に塗装がされている。

 表札のように小さな吊り看板には、『ぱいろんのへや』と総ひらがなで書かれていた。


「これを踏まえて、お嬢様のお部屋をご覧下さい」

 真琴が、ドアノブを回す。


「う……」と、思わずうめき声を上げてしまう。


 服で覆われた部屋が、そこにはあった。まるで服が住んでいるのではないかと思えるほどだ。PCの上にも服が散乱している。


 ベッドは物置と化し、寝床として機能を果たしていなかった。


 床を埋め尽くしているのはビニール袋だ。コンビニ弁当の空き箱が敷き詰められている。足の踏み場もない。


「これ、どこで寝てるんだ?」


 俺が尋ねると、パイロンが部屋の中央に陣取る四角いテーブルを指差す。


 毛布が掛けられ、冬場の足下を温める自堕落製造機だ。


「コタツで寝てるのか!? ていうか、まだ片づけてなかったのか!?」


 夏真っ盛りだぞ! いつまで置いておく気だ?


「あと、何なんだこの棚の量は」


 壁一面は、棚で占拠されている。

 そこにもいるのか要らないのか分からない通販グッズが敷き詰められていた。


 アクセサリを入れる小物入れなどもある、しかし、その上に服を置いてあるから、しっちゃかめっちゃかになっていた。


 パイロンの部屋だけでもこの有様なのだが、他の部屋も似たような状況である。


「うわあ。何があったんだ?」


 魔王ってこんな不衛生な屋敷に住んでいるのか?


「実は、現在魔王様は留守をしておりまして」


 真琴が言うには、魔王は現在、遠征に行くと告げて出て行ったらしい。


「おとなしく城を守って下さっていれば、こうはならなかったのですが、ご覧の有様で」


「鬼の居ぬ間に、ってヤツか」

「まさにその通りでございます」


 魔王が家を空けて数週間、パイロンはここぞとばかりに暴れ回ったという。

 ネットショッピングに明け暮れ、しょうもない商品を買い漁り、コンビニ弁当や宅配ピザを平らげた。


「中でも、余所さまのオークション品に目がなくて」

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