服を脱げ
「え」と、パイロンが固まった。
「だから、さっさと脱げ」
「はい!? 召還されて早々、ストリップ強要? 大胆だなぁ。思春期の人間ってみんなこんなに積極的なのかなぁ」
身体を守るように、魔王の娘が自分を抱きしめる。クネクネと腰をくねらせた。
「爽慈郎様、お嬢様の美貌に欲情するのは分かります。ですが、物事には順序が」
両手を広げて、真琴が俺を遮る。
言いたいことは分かってるが、いても立ってもいられなかった。
魔王の娘の胸に注目してから、ずっと我慢していたんだぞ!
「いや、もう辛抱たまらん!」
「ちょっと! 目が血走ってるんえすけど!」
言いたいことは分かってるが、いても立ってもいられなかった。
魔王の娘の胸に注目してから、ずっと我慢していたんだぞ!
「お戯れを、爽慈郎さま。こういう対価はご勘弁願います!」
「そうだよ! 初対面だしぃ。こういうのはもっと段階を踏んでからの方が良いと思うなー」
後ずさる二人を、俺は手をワキワキさせながら追いかける。
「いいからさっさと脱げ! 染み抜きしてやるから!」
彼女が懸命に話している間、俺はずっと、彼女の服に付いたシミが気になっていたのだ。
真顔になったパイロンから平手打ちを食らう。
そこで俺も我に返る。
「すまん。女の子に言う台詞ではなかったな」
「それは別にいいの。それよりなんかもう、ガッカリだよ」
何が不満なんだ?
「色からしてコーヒーだな。こんなのすぐだ」
腫れた頬を擦りながら、俺はドレスのフリルに付いたシミを観察する。
さっき、パイロンはコーヒーを淹れるとか言っていた。シミはその時にできたんだろう。
換えのドレスを着て、パイロンは戻ってきた。
「汚れの応急処置をしてやるから」
オレはカバンからティッシュとハンカチを用意する。
「水はあるか?」
オレは、コーヒーの隣にある水差しで、ティッシュを濡らす。ハンカチをドレスの裏に当てて、表面を濡れティッシュで叩く。
「あくまでも応急処置だ。気になっただけだ」
「ありがとう。取れなくなるところだったよー」
シミ一つないドレスを見つめ、パイロンが目を見開いた。
「すっご。さすが清掃王子」
「何だと?」
聞き慣れない言葉に対して、俺は聞き返す。
「申し訳ありません。クラスの方々が、あなたをそうお呼びになるので」
頭を下げながら、真琴が言う。
そうだったのか。まったく気づかなかった。
「ええ。クラスの女性方があなたを陰でそう呼んでおられました。非常に残念なイケメ……ゴホゴホ、端整な顔立ちな方だと」
大げさに咳払いしながら、真琴は言葉を繋げる。
「確かに、ルックスはいい感じだもんね」
「そうか? 普通だろ。自分では、ちっともそう思わないそ。母親に似ているとはよく言われるが」
「じゃあ、お母さんが美人なんだね」
それはよく言われる。だが、今は俺の見た目など、どうでもいい。
「落ち着いたところで、用件を聞こう。どうせ聞くまで帰しません、とか言うんだろ?」
「察しがいいね」
見ず知らずの人間に一服盛るような女達だ。油断できない。
「実は、あなたのような掃除好きにしか、頼めない相談だったのです。貴方のお噂は窺っておりました」
「ということは、どこかをキレイにして欲しいのか?」
「はい。見ていただければ分かります」
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