おもてなしは、コーヒー牛乳

 これ、スーパーで棚からなくなるんだよ。今では、すっかりレアものである。異世界でお目にかかれるとは。


「本来なら、もっと高価な品もご用意できるのですが。しかも、値引き品しか売っておらず」


「いいさ。これが欲しい」


 実にいいじゃないか。

 ものを大事にするタイプは好感が持てる。


 変に気を遣って高級挽き立てコーヒーとか出さないあたり、よく分かっているな。


 俺の性格をよく分析しているのだろう。

「冷蔵庫まであるんだな?」


「電気は、この世界にもあるから安心だよ?」

 パイロンはジョッキにコーヒーを半分注いで牛乳を足した。


「はい、カフェオレどうぞー」

 パイロンが、トレイに載ったコーヒー牛乳を差し出す。


 起き上がった俺は、パイロンからジョッキを受け取った。

 カフェオレって言うか、コーヒー牛乳だな。


 そう思いつつジョッキを回す。


「失礼致しました。ちゃんとした物をご用意致します」


「いやいや、気にせんでくれ」

 さっきの睡眠薬の件もあり、俺は警戒していたのだ。


「毒なんて入ってないから、安心してね」


「そうか。なら、いただこう」

 オレはジョッキを傾ける。

 

 低糖を使っているためか、甘さが丁度いい。市販のコーヒー牛乳と遜色ないな。


 さっきみたいに眠くもならないぞ。


「オレはこれでいい。いや、こういうのがいいんだ」


 今はこういった、平凡な飲み物が欲しい。ジョッキに注がれた茶色い液体を一気に飲み干す。相手が俺じゃなかったら、ブン殴られているだろうけど。


 また、コーヒー牛乳は当たり外れがデカイ。ミルクの割合が多すぎたり、低糖が行き過ぎて苦み走っていたり。そんな商品に当たったら、ガッカリする。


 コーヒーが全身に染み渡り、俺を覚醒させていく。


「素晴らしい出来だった。ごちそうさま」


「ありがとうございます。随分と変わったお方ですね。てっきり丁寧なおもてなしを要求するかと」


 食器類を片付けながら、真琴が聞いてくる。


「普通の客なら、そうだろうな。だが、俺は呼び出された。何か理由があって。俺の掃除テクが欲しいんだろう?」


 だからこそ、得体の知れない高級品より、俺の好みを優先した。


 それだけ、逃げられないように予防線を張っている。


 つまり、相当に困難なことをさせようとしているのだ。 


 真琴が、目を丸くして微笑む。


「左様でございますか。飲み込みの早い方で安心致しました。それでは本題に――」


「待ってくれ」


 真琴が話を切り出そうとするのを、俺は制した。ジョッキを空にして、尋ねる。


「おいパイロンとやら、服を脱げ」

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