2-20 背中の傷① ……オッリ
何をしていても、背中の傷は疼き、治まらなかった。
「あぁー、クソッ。調子悪ぃー」
幕舎の外で吹き荒れる雪が激しさを増す中、独りぼやきながらオッリは少女を犯した。
ボルボ平原の戦いで、第六聖女親衛隊を襲った際に奪い取った少女は思った通り好みの女だった──子供ながらに肉づきの良い、いかにも上流階級のうら若き乙女──男を知らなかったその体を、気の向くままにオッリは犯した。
腰を打ちつけるたび、手枷を嵌めた少女が悶え泣く。あどけない横顔を苦痛に歪め、必死に身を捩り、逃げ出そうとする。
その抵抗は無意味だが、煩わしかった。
暴れぬよう、喉元を掴み、羽交い締めにする。それで少しは犯しやすくなった。
それでも隙間風が背中の傷に沁みた。
この女も、背中の傷も、その傷の原因も、何もかもが気に入らない──衝動に突き動かされるままオッリは腰を振り続けた。
*****
ボルボ平原の戦いのあと、オッリはしばらく眠っていた。
目覚めたとき、
目覚めは悪かった。背中の傷は治療されていたが、ずっと疼いていた。
とりあえず捕らえた少女を犯した。犯しながら肉を食った。ウォーピックを爪先を研ぎ、革鎧の傷を補修し、弓の弦を張り直した。部下を相手に打ち合いの稽古をし、得物と馬に体を馴染ませた。
それでもすぐにやることはなくなってしまった。
あまりに暇なので、第三軍団の野営地を出て、駆けた。しばらくして、同じ〈
頬を打つ粉雪に混じり、血の臭いが漂ってきた。その臭いに、久しぶりに胸が高まった。
そして血の舞い踊る雪原で再び月盾の騎士と出会った。
面白い偶然だった。オッリは馬腹を蹴り、手始めに向かってきた深海の玉座の軍旗に挨拶した。騎射と白兵戦で数人殺すと、そいつらは守りを固め動かなくなった。
次に、本命の獲物に向かった。背中に傷をつけた、月盾の騎士。誰でもいい、そいつらを殺そうとオッリは丁寧に挨拶した。
しかし月盾の騎士たちは動かなかった。
怖気づきやがって──騎士様らしくないその姿に苛立ち、オッリは嫌がらせをした。
矢を放ち、軍旗を貫くと、騎士たちは途端に殺気立った。
それでこそ誇り高き騎士様だ──オッリはいつでもかかって来いと胸を開いたが、しかし返ってきたのはオッリが放った矢だけだった。
騎士らしくない、小賢しい返答だった。オッリは矢を返してきた小汚い男を睨んだが、そいつは薄ら笑いを浮かべるだけで取り合おうとしなかった。
どうにも噛み合わず、オッリは毒気を抜かれてしまった。背後では友軍が退却の鐘を鳴らしていた。兵力で明らかに劣っている以上、一騎打ちができないのならばどうしようもなかった。何もかもが気に入らなかったが、オッリは雪原に唾を吐き、踵を返した。
自陣に帰還すると、マクシミリアンに「ここから出るな」と釘を刺され、幕舎に押し込められた。怒っていたようにも見えたし呆れていたようにも見えた。話そうとしたが会話は拒絶された。
また暇になったので腹いせに少女を抱いた。そして今に至る。
*****
目覚めてからの出来事は、何度思い出しても不愉快なことばかりだった。
衝動に突き動かされるままオッリは少女を犯した。
背中の傷が疼く。犯すたび、背中の傷に血が滲むたび、傷口から目まぐるしく揺れ動く感情が溢れ出し、そして体中の古傷が夜に哭く。
犯しながらひとしきり咆哮すると、とりあえず体の熱は冷めた。胸元に抱く虜囚の少女は気を失っていた。
だがしかし、背中の傷の疼きは収まっていない。それらの熱の根源は未だ燻っている。それは背中の傷を舐め、オッリの心中を煽り、嘲笑う。
隙間風が背中の傷に沁みる──第六聖女を逃した口惜しさ。小生意気な月盾の騎士の一閃。背中に傷を負ったという事実。
傷が思い出させる──あの一閃、月盾の騎士が全身全霊を注いだであろう、純粋なまでに無慈悲な、致命の一撃。
背中の傷が戦士の本能を呼び覚まし、オッリの体を熱くする──まだ戦い足りない。もっと戦いたい。背中に傷をつけたあの月盾の騎士と、もう一度刃を交えたい。そして、蹂躙し、叩きのめし、殺したい。
怒り、苛立ち、戦いへの熱情──やり場のない感情がない交ぜになり、身を焦がし、体の中で暴れ狂う。
オッリは軽く酒を煽ると、気を失った少女を背中に担ぎ、幕舎を出た。
冬の夜は荒れていた。煌々と焚かれる篝火さえも、今夜は白い風に歪んでいた。
オッリは吹き荒ぶ雪を蹴り、前に進んだ。
冬の夜に、自らの心に、オッリは何度も誓った──月盾の騎士ども、そしてそれを率いるロートリンゲン家のガキを屠ったうえで、第六聖女を捕らえ凌辱する。狩りの邪魔をする奴は、誰であろうと皆殺しにする。
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