1-12 ハッカペル ……ミカエル
燎原の火に煽られた大地に死が満ちていく。
茫然と立ち尽くす
何もできなかった──ミカエルは己の無力さを嘆き、天を仰いだ。粉雪舞う夕景は血のように赤く、鮮やかでさえあった。
そんな夕刻の空に、突如として一陣の
教会軍本陣を粉砕した
白煙の中を、極彩色の装具に身を包んだ騎馬群が駆ける。両軍の中でも際立って異様な、どぎつい極彩色の軍装の帝国軍弓騎兵が、笑いながら戦場を駆け回る。
〈
言い知れぬ怒りが、再びミカエルの体を突き動かす。
敵の包囲が狭まる前に、身動きが取れる位置まで騎士団を後退させる。敵の攻勢をしのぎつつ、遠眼鏡で白煙の中を覗く。
軽装の革鎧と毛皮の服を着、騎射に適した短弓を携え、そして王侯貴族からの略奪品で自らを装飾した極彩色の獣たちが、けたたましい咆哮を轟かせ地を飛翔する。鐙にくくりつけられた首級から流れる血が、疾駆と共に雪原を赤く染める。現れた
獣たちが放つ無数の火矢が、夕刻の空を裂き、第六聖女の天使の錦旗に襲いかかる。
第六聖女親衛隊も応戦するが、その銃弾も、
激しく矢弾が飛び交う血塗れの狂騒の中、舞い上がる火の粉が天使の錦旗を焦がす。
それを見てミカエルの心は定まった──守らねばと。
「我らが天使の錦旗を見よ! 第六聖女様に群がる蛮族どもを追い払い、我ら〈教会〉の旗印を守るのだ!」
圧倒的な殺意に気圧されまいと、ミカエルは古めかしい直剣の剣先を敵影に向け、迷いを振り払うべく馬腹を蹴った。
騎士団旗を持つ従士のヴィルヘルムが並走し、月盾の騎士たちもそれに続く。追い縋る敵騎兵を退け、行く手を阻む敵歩兵を躱しながら、天使の錦旗を目指す。
すると
極彩色の獣と月盾の騎士が対峙する。
リンドバーグ率いる
リンドバーグの大剣が唸る。重騎兵の
敵の騎射により何騎かが落馬するも、リンドバーグはそれをものともせず、その大剣で獣の群れを一閃する。敵兵が馬ごと宙を舞い、もの凄い勢いで地面を転がる。それでもまとまっている敵集団には、アンダース率いる銃騎兵が、
即座に形勢の不利を察したのか、
「数はこちらが圧倒的に優位だ! 包囲して殲滅しろ!」
「お待ち下さい! 追撃は他の者に任せ、ミカエル様は後方に下がるのです!」
「すぐ目の前に敵の背中が見えているのだ! みな、〈教会七聖女〉に仇なす蛮族どもを皆殺しにせよ!」
ディーツは制止したが、ミカエルは先頭切って追撃を指揮した。騎士団長たる者、みなの模範となるよう雄々しくあらねばという思いが背中を押した。先ほどの突撃の失敗を帳消しにしたいという思いもあった。それに噂に反して、
断続的に放たれる矢を払い退けながらミカエルは敵を追撃した。
「逃がすな! 追いつけるぞ!」
ミカエルの激に、騎士たちも馬に拍車をかける。
すぐに
ミカエルも古めかしい直剣を鞘に納め、拳銃を構える。そして極彩色の獣の一人の背中に狙いを定め、引き金に指をかけた。
そのときだった。唐突に、
思わぬ行動に釣られる形で、拳銃が撃ち鳴らされる。銃弾は空を切り、硝煙が
ほんの一瞬、銃声が戦場の喧騒をかき消す──その直後、間髪入れず、狂った笑い声が静寂を切り裂く。
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