第41話 奇蹟の行方
私は気が付くと静奈さん腕の中だった。
私たちは土嚢陣地の上にあがっていたが、身体は既に静奈さんによって手当てされてあった。
「ささっと自力で立て」
そのままドサリと落とされた。
折れた腕は死ぬほど痛かった
もう玲奈さんは、ただ見下ろしていた。
文句を言おうとしたけど静奈さんの目線に気づいて私もその方向を見つめた。
「彩加。お前の目にはどう映る」
玲奈が一弥に近づけないまま立ち尽くしている。
「あれは動けないんだ。今の一弥の周りには仕掛けもペテンも何も無い」
それはどういうことなのか――と話し出す前に静奈さんは続けた。
「立ち幅跳びの世界記録は3・47メートルだ。お前の周りには落とし穴が張り巡らされてあったのさ。距離10メートル。深さ10メートルのね。それなら幾ら性能の良いお前の身体能力を駆使しても、それを埋めることは出来ない。お前を守っていたあの石は、その事を知っていた。だからお前の足は動く事が出来なかったんだ」
「それじや……」
私はハッとする。
「ああ、あの石の能力はお前の意志を媒介にして、ただ絶対的な命令を本人の願望として叶えていたんだ。その答えは誰にも物理的に触れられないこと。もっともそれは私が限定させて貰った。覚えているか、私が挑発して『私には絶対に触れられないんだから』って自分で強力な暗示(願望)を掛けて貰った。その石の秘密が本人の発想の分だけ世界が存在できるなら、その仕掛けを知らなければ思いつけるはずがない。それなら可能性を広げられてもある程度は限定できるってわけだ。それに粉のような
モノは避けられるわけがないしな。あの粉のひとつひとつを至近距離で避けるような
可能性は万に一つだろう。風でも吹けば別だが、あの空間は私が作った故に無風だ。
それに、もう一つの願望っていうのが一弥の正確な判断を奪うこと。こっちの方がお
前にとっては大切なモノだったんだろう。それ故に、お前は複数の事を同時に叶える
為に、すべての力を一点に集中させる事が出来なかった。意外な顔をしているな。黒幕からは、ひとつの事だけしか叶えられないとでも聞いていたのか?」
私は頷いた。
「なるほど、そこにお前の敗因ある。良いか物事の本質を見極めるのが術師の基木
だ。それなのにお前は人の言うことを鵜呑みにした。お前は、心のもっと奥底で二つの願いを叶えたいと思ったんだ。思うに一弥に媚薬か何かを盛っていたが、待てど暮らせど効化がない事に焦ったんじやないのか」
私はそう指摘されてハッとする。
「あれは本物の奇蹟だった。その能力を二つに割ったから奇蹟が高度な魔法に変って
しまった。そうじやなかったら触れられることを拒絶したお前に、私たちが触ること
は不可能だった筈だ。まったく可能性を考慮し全部潰すのも大変だった――次の瞬間にはお前の空間が都合の良い世界に転移しているんだからな」
「それじゃ……」
「そうだ。言うなればサッカーくじを全通り買うのと同じ事だよ。割が合うはずがない。その時点で手持ちの資本は例え当たってもジリ貧だ。本来の正しい世界に誘導するのに、それでもあれだけの茶番が必要だった。まさに奇蹟だったな――限定的であったけれどもな。本来のお前なら私と話していた時点で気づく筈なんだ。あの時、お前の思考は一弥の思考を奪う事に専念していた――そこに私の付け入る隙があったわけさ。もし、手にある戦力を一点に集中させていたら、私たちが幾ら確率を駆使してもお前の勝ちは動かなかっただろう。
そこまで言って静奈さんは押し黙った。
玲奈が一弥に仕掛けたからだ。
「それにしても彩加。
そう静かに細い息を履いた。
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