第37話 トマト闘争


 約束の午後二時。

 ルンタッタ。ルンタッタ。

「――敵は本能寺にあり!!」

 太陽は昇りきり後は下降していくだけの時間帯。

 事務所のドアを開けようとすると鍵は掛かってなかった。

 私は慎重に扉を開けると開けた空間にでた。

 その奥に見えますは敵の居城。

 はい? ――居城!?

 奥に何となく小さな砦とおぼしきモノが組まれてあった。

 そこは空間は広くないが、大きな体育館くらいの場所だった。

 私は自分の眼を疑ったが、もう一度見直してもそれは幻でなかった。

 御丁寧に旗まで立ててあるし。

 規模は横に約40メートル、高さは2メートル強もある。

 その奥に本物の事務所のドアが見えた。

 其処までの通路を物理的に塞いでいた。

 それはサバイバルゲームとかが出来そうな良くわからないハリボテだった。

 その上に洪水とかで使う砂袋がたくさん積んであったりした。

 たしか、あれ土嚢とか言うんだっけ。

 ――しかし、静奈さん暇だな。

 そう私は呟き。

 怒りも忘れ暫くの間だ呆然と立ち尽くしていた。

 しかし、この無駄な制作過程のために時間を割かれたと思うと沸々と怒りが込み上げてくる。

 さらには、こんな大掛かりな空間まで作り上げて、静奈の奴ってば! まったくの才能の無駄遣いだろ。

 こんなものを作るために奴らは12時間も費やしたなんて――本気で意味がわ

かんないわ。ホントーーバッカじやないの!!

 私は携帯を取り出して

「静奈さん! これなんですか。こんな陣地みたいの無意味ですよ。サバイバルゲームでもやる気ですか!」

「――彩加。解ってると思うが私たちは徹底抗戦を崩す気はないよ。四の五の言わず、さっさと攻めてこい。言っておくが、攻城戦の場合、攻め手は三倍の戦力を用意するのがセオリーだ。だからあと彩加は四人ほど必要だぞ」

「まったくバカげてますね。いや、バカそのものですね。ふうッ――今なら間に合い

ますよ。大人しく投降してください。そうすれば痛くはしませんから……」

 そう論すように警告してやる。

 私は心が海よりも寛大なのだ。

「ふふふッ。彩加、それならお前が負けを認めろ! お前が負けを認めたのなら和睦の道も考えてやろうじやないか――今なら少しの折檻ですむ」

「はあ~。ホントこんな事は言いたくないんですけど静奈さんってやっぱりバカなん

じゃないんですか?」

「ああ、バカで結構!」

「なら結局、交渉決裂ですか。それなら話すだけ無駄でしたね。絶対痛い目みますよ。でもそれは静奈さんが選んだ道ですからね。みんな自己責任ですよ」

 私は電源を消した。

「一弥。これ持ってて」

 一弥は無言で頷く。

 強く拳を固める。

 その感触を確かめるように何度か握りしめる。これで戦闘準備完了だ。

 この石の絶対防御&私の攻撃力で奴らは一網打尽だ!!

 あはははッ。

 そう胸をそらせて笑う。

 すると砦の上に玲奈が目の中に入った。

 ――直後、正面から何かが飛んでくる。

 猛スピードの朱色の塊。

 それは完熟したトマトだった。

「はははツ。何それ――そんなの当たるわけ無いでしょ。馬鹿じやないの!」

 私は、あまりのくだらなさに怒る気も失せてしまった。

 思った通りトマトは私の横顔スレスレを横切っていった。

 後方でベチャリと弾けた音がした。

 ――ほらね。

 それからトマトの連打連打連打!

 連打連打連打!

 トマト・トマト・トマトの弾幕だ。

 だが後方で飛んできた数の破裂音が虚しく聞こえただけだった。

「な、なによそれ……本気でそれだけなの……」

 始めは理解できなかった。

 というか信じられなかった。

 あいつら正真正銘のバカだわ。

 ――敵わないからって、破れかぶれにも程がある。

 まったく信じた私がバカだったのよ。

 こんなものが……。

 「あたっるか~~~!!!」

 つい咆眸してしまう。

 ――私も子供だった。

 あいつらは、もっとクソガキだけどね!

 まあ、こうなったら何でも良いわ。

 そのルールで戦ったるわよ!

 そう決めたら、私は悠々と進んでいく。

 だけど間違っても急いだりなんてしない。

 両手を挙げて、かけ出すなんて以ての外だよ。

 まるでホラー映画の怪物の気分だ。

 それも主人公側に勝ち目のない残酷なB級ホラー。

 気分は最高!!

 ふふふツ。

 早く逃げないと喰っちゃうぞ!!!

「やベー」

 トマトを連発している式が距離を詰められて大慌てで逃げていく。

「こら、玲奈! アンタ本気で戦う気あんの?」

「ヘヘん。彩加のバァカ。こっちまでおいで、ベー!」

「はぁ。ムカツク。このバカ玲奈まちなさい! 壁際に追詰めてふんじばって、トマトを最低一箱分、口の中に突っ込んでやるぅぅぅぅう!!」

 私は腕まくりをして駆け出した。

 それは、まるで幼稚園の頃の鬼ごっごだった。

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