第35話 最終決戦まであと5分

「ふん。それにしても最終決戦まで、あと5分ぐらいかしら」

 私は優雅にお茶を啜りながら外を見つめてる星ヶ丘の本町公園。

 夜の2時ともなると誰もいない。

 電話でもかけてやろうかな。

 静奈との約東の場所は郊外にある。

 私は向かいにあるホテルの12階から双眼鏡で眺めている。

 辺りを見渡したその瞬間――手元に置いていた携帯が嗚り出した。

 ほほう――静奈からか。

「はい」

「彩加。そろそろ時間だが……」

「ええ。それにしては約東の場所にはおられないようですが」

「ああ、彩加。やっぱ面倒臭くてな――私は行くのをやめようと思う」

 私は眉をひそめた。

「それはどういう事ですか。必ず式と一緒においで頂くように約束をした筈ですが!」

「クククッ。あははははッ。ああ、笑が止まらないよ。笑止とはよくいったもんだ。昔の人は上手いことを言う」

「静奈さん。あなたという人は……」

 その言い草に怒りが込み上げてくる。

「なんだ。弱虫の癖に私に説教する気か! ククッ――笑わせるなよ。私を呼びつけ

やがって、良いかよく聞け。お前は忙しくてお前の相手なんてまっぴらゴメンなんだ。実際迷惑なんだよ!」

「へえ。そうですか。そういう気なんですか。この間も訳のわからないガラクタを買

いにわざわざカイロまで出向く方ですもの。それはそれはさぞかし忙しい日常でしょ

うね。そして可愛い弟子の相手も出来ないというわけですか!」

「ああ、半人前の弱虫の相手なんて時間の無駄だ。なんのメリットもありゃしない」

「ほう。私が半人前だというつもりですか。これでも其方にいる雨宮玲奈も追っ払っ

たというのに」

「はははッ。ますます持って半人前の言葉だな。玲奈を追っ払っただと、それで倒したつもりか。ふざけるのも大概にしろ。あれは玲奈がやる気を無くしただけだ。別に

お前が勝った訳じやない。それに、玲奈なんぞ。私の使い魔の代りに使っている奴だ。言っておくが使い魔とは自分より強い奴にしか従わない。ならば使い魔の相手にもならん奴が、この私を一丁前に呼びつけるんじやないよ」

「ほら本音が出た。結局、白分だけが力を独り占めなんだ。本気で教える気なんて元々なかったんだ。だから簡単にすっぽかしたり出来るのよ。それなのに私、アンタなんか信じて馬鹿みたい」

「ああ、やっと気がついたか。お前って本物の馬鹿だな。いいか私は現役だよ。なん

でお前なんかに全てを教えなきやいけないんだ。良いか静奈よく覚えておけ。お前が

何を手に入れたか知らんが、それは私に通用しないぞ」

「そっちこそ。私に何も通用しませんよ。どうせ指一本触れられないんですから」

「ほう、凄い自信だな。それがお前の新しい能力か。アンタッチャブルを気取るのも良いが、触れられないだけでは相手は倒せんよ。もっとも逃げるには適した能力だがね」

「この私が逃げているですって! 私は逃げも隠れもしないわ。私には絶対に触れら

れないんだから覚悟すると良いわよ。絶対に泣いたって許さないから、ゆっくり、ゆっくり叩きのめしてやるんだから!」

「ふん、悔しいか悔しいだろう。なら、12時間後に私の工房へきな! それなら相

手してやるよ。だが、お前と私では格が違うんだ。それをまず理解しな――雑魚!!!」

 ガチャン。

 ツウー。ツウー。

 ――何あれ。

 あいつ。今なんてった!!

 私が雑魚だって。

 あんにやろうめ!

 私は携帯を壁にブチ当てた!

 はあはあはあ。

 そう息が切れていた。

 だが周りに当たり散らすと、私は直ぐに頭から熟が覚めて冷静になった。

 クククッ。あはははははははッ。面白い。面白いわ。

 ――雨宮静奈。

 今、アンタは完全に私の敵に成り下がった。

 昼間の事でも玲奈が可哀相だって思ったからストッパーかけただけなのにさ。

 覚悟するが良いよ!

 静奈が幾ら天才だって私に絶対に触れられないわ。

 お前が触れられるのは私の拳骨だけと知りなさい。

 ――それも顔限定のね。

 そんな風に思いっ切りやって良いならやってやるわよ。

 その代り少しばかり死にそうになっても知らないんだから。

 まあ、手加減が出来なくて死んじやっても什方ないよね。

 警告はしたんだし――結果、死んじやっても私のせいじゃないわよね!

 それにしてもなんだか楽しくなってきた。

 私がどれだけ出来るのか思う存分試せるからね。

『最期に言っておくわ。良いこと若い内に世界のひとつやふたつ相手にするのも経験

になるわよ』

 ――って最期にあの人は言ってたもんな。

 ああ、やっぱ、超一流にアドバイスを聞いてみるもんだよ。

 私は久々に全身がブルブルと舜れるって経験をした。フフッ――の感覚は癖になりそうだわ!


 私は敵に成り下がった雨宮静奈と端から敵である雨宮玲奈の潜む悪のアジトに堂々

と真っ正面から乗り込む事に決定した。

 どうせ、稚拙な罠が張ってるだろうが知ったことか小賢しい!

 正々堂々と文句の無い戦い方をしてやる!

 今の私に作戦など無用。

 ふん! 泣いたって叩くのをやめないんだから。

 最期は土下座させて泣きを入れさせてやるわ。

「彩加さま、すいません」ってね――わはははッ。

 すると電話が嗚った。

 クククッ。なんてタイミングが良いんだ。

 ――頬が緩むじやないか!

 電話にでると聞き覚えのある声が聞こえた。

 すでに次の隠れ家が用意されているという。

 私は指を嗚らすと一弥を従えて隠れ家からでた。

 すると何所から途もなく黒い車が現われて私たちを連れて行った。

 私たちは約束の時間までは用意された一流のスイートで優雅に時間を過ごすとし

ましょう。

 おまいらは精々、束の間の夢を見るがいい。

 明日には、その傲慢な鼻柱――この私が砕いてやろう。

 わははははははッ!!!



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