第32話 ペテン師

だが、あれは何だったんだ。

いきり立つ自分の心を抑えるように冷静に考え始めていた。

 もちろん何かの力を使ったことは間違いない筈だ。

 映画ならまだしも、あれが偶然だとはとても考えにくい。

 それにあの背筋を伝う冷たい汗のような嫌な感じは意図的な悪意さえ感じさせる。

 あれは何というか圧迫感だとでも云えるだろうか。

 もっとも思い返せば彩加に敵意を持つだけで、誰かに睨まれている感覚が常にあった。

 しかもその正体はわからぬままだ。

 あたしは冷静に反擲する。

 それにしてもあれが彩加の秘められた能力なら充分な脅威だ。

 なんせ近づくことさえ出来ないのだから。

 これは、あたしのわざの有効射程を超えている。

 なら、御色那由他と遣り合った時よりも厄介だ。

 だが状況の良い部分としては拉致監禁している相手が彩加だから万が一も一弥の

危険は考慮しなくて良いことだった。

 だが、それが逆に歯がゆい。

 今のままでは完全に打つ手なしだ。

 まったく彩加のペテンのトリックが解らない。

 だがペテンの事はペテン師に聞くのが早い。

 なら身近なペテン師に聞くのが正解だと思われた。

 それに静奈はこういう事を好みそうだ。

 頼まなくても自分から進んで足を突っ込んでくれるだろうよ。

 あたしは身体を洗って着替えを済ませると静奈の事務所に向かった。

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