第27話 蛇に睨まれた蛙
「ふふふツ。玲奈、久しぶりね」
足音があたしを既に起こしていた。
声が聞こえるまで眼を閉じていたのは誰の足音なのかを知って
「彩加、久しぶりだな」
「ええ、そのようね」
「それで何のようだ。あたしは今忙しいんだ」
「つれないな~。それにしてもあんた何をしているの?」
「ああ、一弥を探していたんだ」
「ふうん、一弥をね。どんな理由で?」
「静奈がさ、一弥の給料を渡して欲しいっていうから。あいつも変な上司を持って大変だな」
あたしは皮肉たっぷりに笑った。
「なるほどね。まあ、静奈さんは確かに変わってるとは思うわ」
「へぇ、以外だな彩加――お前まで、静奈批判を始めるのか……。ふうん。そんならアイツの人望ってこれまでじゃないかな。まあ、お前もどうせ、すっぽかされたクチだろ」
「ええ、確かにそうね」
彩加は冷ややかに笑った。
あたしはその瞳を見て僅かに肌が粟立った。
それは一寸の隙もない張り詰めた人間の表情を思わせた。
その瞳の奥に不安という文字は一切ない。
奥底にあるのは無限に広がる深い瞳の色だった。
張り詰めた表情は自分だった。
瞳に映り込んだのは、あたしの顔だった。
「――お前、彩加だよな?」
そう思わず聞いてしまう。
「えぇ、間違いなく私は正真正銘、藤倉彩加よ」
「ふぅん。まあ、良いけど。それにしてもお前、何かあったか?」
あたしはバツが悪そうに目線を外した。
というよりも外させられた。
こんな感覚は初めてだった。
コイツは彩加であって彩加でない。
そう、あたしの本能は気がついていた。
しかし、その原因が恐怖であることに気が付いてはいなかった。
「何かって?」
「そうだな。たぶんこれは気のせいだと思うけど、お前の中で何か迷いが消えた。そう吹っ切れたって感じだ」
「そうかしら、何も変わってないわよ。相変わらず、私はアンタが気に入らないわ」
そう彩加は静かに呟いた。
「そうか、そうだよな。ところで、お前の耳に光るその蒼い石はなんだ?」
「ああ、これ……ただのお守りよ。一弥に買って貰ったの」
「ふぅん。そうか……それにしても眠い。とても眠いんだ……」
「――ならしかたないね。れ・い・な」
彩加の後ろに見える黒い陽炎が紡ぎだす抑揚の無い科白を遠くで聞いた気がした。
離れていく彩加の後ろ姿には耳飾りがもう無かった。
――あたしは不思議だと思った。
だが数瞬後、あたしは深い闇に落ちた。
そのシグナルを誰が発した声なのか気づくことも無しに。
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