第25話 異界
「どうなってやがる?」
あたしは彼っていた毛布をはね除けると思わず苛立った口調で呻くように撒き散らていた。あのまま事務所で眠ってしまったらしい。
窓から斜めの光りが降りそそぐと、猫のように丸まっていたあたしの顔にも容赦なく降りかかっていた。
いつになく強烈な光りで眠りを妨げられたことと、何となく機を逃して一弥に逢えない不満からあたしは妙に苛立っていた。
「彼奴は逢いたいときに逢えやしないのに逢いたくもないときには現われるんだ――何時も! 何時も! 何時も!」
あたしは自分が感情を出さない方だと思うが、考えられ無い程の不満に心の底から怒っていた。
たが、何か噛み合わなかった。
この世は確実におかしかった。
それが間違いないことはあたしの本能が壊れたサイレンのようにわめき散らしている。
根拠などない。
不思議だが、それに誤りはなかった。
「それに一弥の奴、電話のひとつもかけてこないってのは何ごとなんだ。あたしはお前の大切な給料を預かってるんだぞ莫迦者!」
そんな風に一弥にしてみても預かり知らぬ事で怒られたら、たまったもんじゃないだろう。
だが事実、その時のオレは何か漠然とした違和感を感じ始めていた。
それは勘や第六感だったかもしれない。
オレは、その不安の正体が何に端を発しているのか掴めようのない為に苛ついているって云うのが本当だったと思う。
初めは自分自身に何か決定的な何かが起きたと錯覚したほどにあたしの日常はどこか奇妙だった。
なんだか世界が歪んで見えたほどだ。
まあ、それは大袈裟だったとしても、これから出掛ける世界は紛れもなく異界に違いなかった。
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