第22話 シリウス

 


 僕は何時間待ったことだろう。

 時計を見ると、深夜の一時半を指していた。

 さすがにもう玲奈が朝までに戻ってくる気がしなかった。

 この頃仕事ばかりでほとんど玲奈の相手をしていなかったから、もしかしたら実家にでも帰ったのかもしれない。

 いや、それはさすがに無いか。

 彼女が実家に帰る姿が思い浮かばない。

 先ほどの思いつきさえ言葉遊びのように文宇が頭に浮かんだに過ぎない。

 玲奈も少しぐらい帰ってあげたらいいのに。

 そういうと彼女は酷く機嫌が悪くなる。

 どうしてなのかは知らないけど。

 でも、僕は玲奈が嫌なら別に帰らなくても良いと思う。

 でも披女の両親は良い人だ。

 だから心配をかけない程度にすれば良いと思う。

 まあ、静奈さんもこっちに来てるから心配はしてないか。

 僕は空に輝く星を見上げた。                       

 都会の空は小さな星の輝きまでは見えないけれど、北辰に輝くあのシリウスは輝きを忘れない。

 それは永遠を表わす記号のように見えた。

 僕は普通を望むけれど、玲奈はどうなのだろうか……。

 そんな風に将来のことを考えていた。

 だが、不意に僕の考えを遮るように自動車のブレーキ音が近くに聞こえた。

 僕が振り向くとタクシーから降りた人物と眼があった。

「あ、彩加。どうして此所に?」

「あらこれは一弥兄さん。奇遇ですね。こんな所で逢うなんて。随分待たれたみたですけれど……」

 彩加は眼を細めてニヤリと嫌らしく微笑んだ。





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