第18話 スターサファイア

 


 ルンタッタ。ルンタッタ。

 私は鼻唄交じりで気分が高揚していた。

 理由は不明。

 けれど何も私を妨げるような煩わしい出来事が何一つ起きない。

それが最高に気分を高揚させていた。

 私が進めば全ての信号は青になり、デパートに入ればエレベーターも私を待っていたように扉を開ける。

 しかも誰も乗っていない。

 また古本屋を巡れば絶版した本がコインー枚で手に入り、欲しかった洋服を手に取ったとたんに、半額セールになる。

 すべてが順調だった。

 これが本来あるべき私の姿なんだ。

 やっぱり薄幸の美少女なんて私には似合わない――私は素直にそう思う。

 あれはあれで女の子にとっては最高にロマンチックなシチュエーションなんけど

なあ。

 ふふふッ。

 取り留めのない無邪気な感覚は私を遠くに運び去り気づけば街の中心街にまで足を運んでいた。

 少し喉が渇いたので、白動販売機で飲み物を買った。

 どうせ、もう一本当たるに決まっている。

 そう思ったけど、その期待は見事に裏切られた。

 私は一瞬、眉を潜めたが、すぐにニンマリと微笑んだ。

 チャリチャリと入れたはずのお金がおつり受けから全額出てきたからだ。

 なるほど~~今度はこうきたか!

 なら私は電車に乗ることにした。

 隣町に有名で高級な洋菓子屋さんがあることを知っていたからだ。

 ――むろん、おつりが満額出てきたことはいうまでもない。

 ふふふッ。理由は謎だ。

 理由は永遠に解明されることがないだろう。

 はッはッはッ!

 私は偶々偶然にも十万人目に来店したらしく、大漁に注文した高級スイーツは予想どおりプレゼントされた。

 此所までくると何か末恐ろしい気がしないでもない。

 もう私の中で何年来のお気に入りにまで昇華された。

 ショーウインドーに映り込ませたスターサファイアは幾条もの輝きを辺りに振りまいていた。

 この蒼い耳飾りを何度も手で玩んで微笑んだ。

 それはもう完全な幸福の色調で私の未来さえ明るく染め上げるに違いなかった。その澄み切った秋の空から切り出された深い蒼。

 高貴な少女の稿れのない優美な瞳のような深い蒼。

 それは蒼い幸福に満ち、この先にある総て幸せを約束しているようだった。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る