第17話 玲奈の部屋



「あれ誰も居ない」

 僕は扉の前に佇んで呟いた。

 ――誰かはいるだろうと思ったんだけど、誰もいなかったからだ。

 あれ、静柰さんも玲奈も彩加もいない。確か、今日は給料日で僕は所長である静奈さんに用事があったのだ。

 しかし、この事務所はものけの空だった。給料日に静奈さんが居ないことなどざらにあることだけど、問題なのは一弥の給料だった。

 それが無事であれば問題無いはずなのだ。

 だが、いつまでも茫然と立ち尽くしていると何か漠然とあまり良くない想像が立ちこめて来たので、僕は事務所を後にした。

「仕方がない。もう家に帰ろうか――それとも玲奈のところに遊びに行こうかな」

 そう呟いて僕は玲奈のアパートに移動した。

 しかし、玲奈の留守だった。

 これも何時ものことで玲奈が帰ってくる気配はないけれど、少しだけ待っていることにした。

 空を見上げると紅の大きな月が僕を見下ろしていた。

 あれは満月に近いけど、膨張したように不気味な紅に染まりきった月だった。

 僕はパイプ状のガードレールに腰掛けながら、缶コーヒーを啜ると、なにか不吉な夜を感じ始めていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る