第16話 覚悟




彼女は帰っていった。

なんでも時間がきたからだとか、そんな取り留めのない言葉を残して去っていった。

もう嘘みたいに腕の感覚は戻っている。

 そして、私の手には目新しいイヤリングが煌びやかに輝いている。

 彼女は壊すことしか能が無いって言ってた。

だから、これはなんでも知り合いから貰ったらしい。

 たけど、それだけの筈がないと私には感じられた。

 さすがは名門雨宮家の層の厚さが感じられると言うべきなんだろうな。

 そう私は反芻する。

 まったくもって暴風に巻き込まれたような一日だった。

 けど、私の気持ちが少しだけ満ち足りたものになったのは事実だった。

 スリリングな体験だったからだろう。

 私は術師として格の違いというモノを感じてしまった。

 正確にいうと彼女は雨宮家の中でも、いちにを争う存在だろう。

 静柰さんでも仙人に近い術師なのに、彼女はその上をゆく。

 だとしたら概念的な定義でも計り知れない存在だろう。

 まさに規格外!

 普通、自分よりも凄い存在を知ると人は悲観するらしいけど、私にはとても晴れやかに映った。

 格の違いもこれくらい違いすぎれば惶れにも繋がってゆくモノなのだ。

 私はそう思う。

 あの人も師匠と同じように白分の信念に基づいて生きている。

 その形はそれぞれ違うだろうけど、それは私に対する彼女の言葉にも表れていた。

「自分らしさを持ちながら生きていければいうことはない。それは自分の中の価値観であって、他人の意見に筒単に左右される代物じやないし、簡単に覆っては駄目なものだろう。それは貴方が生きてきた証であり、それが自己の判断を形成させた何かだと思う。それこそが思考的感覚であり、つまりは信念という代物。あとはどれだけ世界と渡り合えるか。言い換えれば自分の自我を通していけるかだけ。泣き言を言う前に、自分ができる最高をどれだけ出し切れたのを自分の胸に聞きなさい。ベストを尽くしたか尽くさなかったかは自分だけしか解らないはずだから」

 そう最期に彼女は真顔で言い放った。

 私は、なんだが急に真摯で直向きな態度をとられて驚きを隠せなかった。

 すると彼女はニツコリ微笑んで

「ふふ。こんなのは柄じゃないか――ま、適当に頑張れってことよ。じゃ、私は応援してるから」

 と微笑んだ。

 彼女は急にクルリと背を向けていつまでも見えなくなるまで手を挙げて歩いていった。

 もしかしたら照れ隠しだったのかも知れない。

「私も覚悟を決めるしかないんだろうな」

 それだけ呟くともう日は落ち始めていた。

 私は事務所の扉を閉めて鍵をかけると夜の闇に身体を馴染ませるように深く入り込んでいった。




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